私は阪田さんが1929年に大阪朝日新聞に連載した「将棋哲学」という連載を読んだことがありますが、彼は将棋盤の上で学んだ哲学者であることをそこで知りました。自分が何も知らなかったと思いました。調べると彼は、部落差別と闘った人物でもありました(『メッセージ・ソング』参照)。
五月家一若さんの「涙の王将」は、そういった事実を踏まえながら、物語を編みなおしているわけです。
「涙の王将」には、故郷へ帰ってきた老境の主人公に向かって、幼なじみが、あなたは私たちの星である、輝き続けてほしい、そして一緒に闘おうではないかと、挫けそうになっている「坂田三吉」に勇気を与えるシーンも出てきます。とてもいい場面です。
河内音頭は、
河内家菊水丸(かわちや・きくすいまる)君が今もやっているように、もともとは「新聞詠(しんもんよ)み」とも呼ばれていました。つまり新聞でありジャーナリスティックな批判精神を備えた音曲です。だから、歴史的にいろいろなメッセージを盛り込んできたという特色があります。「涙の王将」も、突然のように思いついたネタではないんです。
確かに鉄砲さんの「王将物語」から一若さんの「涙の王将」までに、40年もブランクがありましたが、
河内音頭の力、あるいは
河内音頭という「メッセージ・ソング」は、未だに生きているなと私は思っています。(連載第4回へつづく)。
*2001年1月19日、京都会館で行なわれた「第23回部落解放連続講座」(主催・部落解放京都地方共闘会議)での公演を再構成したもの。