岡林信康の復刻スタート:『わたしを断罪せよ』
「昔の僕は支持してくれる人たちの拍手に感激、熱狂して歌っていた。しかし、その人たちが僕をしばりつけようとしていることに気がついた。しばらく休んでいる間に冷静に世の中を見つめるようになった。何しろ熱狂したり信じ切ってしまうのはいかん」(一九七〇年4月) 
 今から三八年前、岡林信康が語った言葉である。この頃の彼は「フォークの神」とまで呼ばれて、若い世代にとっては特別な存在だった。田舎の音楽ファンだったぼくも、ラジオの深夜放送から流れてくるオカバヤシの歌声はよく聞いていた。赤い鳥の「竹田の子守唄」もそうだったけれど、既成のレールとは一線を画する場所から発せられる歌こそが、我々のもの!…そういう意識の頂点にいた(あるいは祭り上げられた)シンガーが、彼、岡林信康だった。
 今年はその岡林がレコード・デビューして四〇周年を迎え、復刻シリーズがスタートした。手許にあるのは六九年のアルバムとしての一枚目『わたしを断罪せよ』と、セカンド『見るまえに跳べ』(七〇年)である。冒頭の引用は二枚目を発売する少し前の新聞記事で(CDに出展は明記されていない)、すでにこの時期から彼は周囲の評価に疑問を抱いていたことがわかる。
 その理由の一つが「手紙」や「チューリップのアップリケ」という被差別部落をテーマとする歌だった。どちらも「竹田の子守唄」と同じように、歌と部落問題を語る上で欠かせぬ作品であることは本誌の読者であればご存知のはずだ。
 たとえばデビュー・アルバムに収録された「手紙」。恋人の「みつるさん」と一緒になる約束をした「私」が、彼の親族から受けた差別のため、ついに身を引く決心をするという内容である。個人的な話だが「手紙」はぼくにとって部落差別をはっきりと意識させてくれた歌であり、同時に日本音楽もロックや黒人音楽と同様な土壌にあることを勘づかせてくれた歌でもあった。
 しかし岡林の周囲の意見はもっと多様で、騒がしかったようだ。差別を受けた「私」がなぜ、身を引く、という結論を引き出さざるを得ないのか…おかしいではないか…こういった意見も解放運動側から発せられたし、その意見は今も存続している。
 今の日本と異なり、社会運動がまだ充分に熱かったあの時代、岡林のような突出したシンガーは、多様な異論や批判を一身に背負わざるを得なかった。
 最底辺の人たちへの視線(「山谷ブルース」ほか)、自由と団結(「友よ」「私たちの望むものは」ほか)、反戦・反権力(「戦争の親玉」「おまわりさんに捧げる唄」「NHKに捧げる歌」ほか)…自分の思いを包み隠すことなく、歌い切る。彼はそれがどれほどの反響を呼ぶのかに対して、ほとんど無防備であった。考えて、躊躇するよりさきに「跳べ!」という時代にあって、岡林はその通りに行動し、ついには疲れて果てた。彼はこのあとで隠遁生活に入るのだが、今回紹介した二枚のアルバムは、たった二年ほどの時間で急激に変化した一人のアーティストの軌跡を聞くことができる。
 ヘタっぴな歌手である岡林ではあるものの、この人はこのアルバムであの時代を築いたことをぼくらに分らせるのが『わたしを断罪せよ』だ。「モズが枯木で」から「手紙」へと至る流れが、粗っぽくも、凄い。
 第二作『見るまえに跳べ』は、はっぴいえんど(細野晴臣ほか)を迎えてのバンド編成のアルバム。制作責任者としての早川義夫(ジャックス)のセンスも光る名盤として名高い。
(初出:月刊『部落解放』2008年11月号「東京音楽通信」から)

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( 2008/11/11 )

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