世界から東博へ、役者が勢ぞろい。「写楽」展がはじまる
 そろいもそろった142図。世界に現存する写楽の作品146図のうち、97%にあたる作品を集めた特別展「写楽」が上野の東京国立博物館で開催中だ。
 
会場の入り口(Beats21.com) 
 
 近年、“ベスト・オブ・ベスツ”の企画が多い東博の特別展だが、この「写楽」展もまちがいなく、そのひとつ。企画開始から5年もの歳月をかけての開催となった本展では、アメリカ・ホノルル美術館やボストン美術館、フランス・ギメ東洋美術館、ベルギー・王立歴史博物館など、質の高い浮世絵作品を収める世界の美術館から最上級のものばかりが集められているのだから、たまらない。
 写楽はいまから220年ほど前の、寛政6年(1794)年5月に28点の大判雲母摺り(きらずり)の大首絵を一度に出版して江戸市中の度肝を抜くデビューを果たし、わずか10カ月で姿を消した。このことから、その存在が「謎」として人々の関心を集めてきたが、今回の展覧会では、その謎解きにはあえて触れず、作品そのものの魅力を十二分に味わう試みがなされている。
 第1章、第2章は、写楽以前の役者絵や写楽を世に送り出した蔦屋重三郎の仕事(喜多川歌麿や勝川春朗=葛飾北斎)を紹介するイントロダクション(とあえて言う)。そして、第3章からが、待ってました!の写楽の登場となる。
 第3章の見ものは、版画ゆえに可能な、状態の異なる同一作品を最大3点並べてみせる世界コレクションの比較展示だ。大首絵のなかでもとりわけ有名な、見栄を切る≪三代目 大谷鬼次の江戸兵衛≫をはじめ、昨年のオークションで競り落とされた個人蔵の≪三代目瀬川菊之丞の田辺文蔵女房おしづ≫などといったものまで、摺りたてのような状態で残る、輝く黒雲母や鮮やかな紫は圧倒的。日本に残っていたら、国宝指定もおかしくない海外流出作品群の色の美しさには、ただうっとりするばかり…。また、摺りによっては版の差し替えがあって、署名の位置や柄自体が変わっていたりする。そうした違いを、ゆとりある空間で間近に堪能できるのは、東博ならではの強みだろう。
 受け口、わし鼻、深く刻まれた皺を克明に描かれた写楽作品の役者たち。
「あまりに真を画かんとして、あらぬさまにかきしかば、長く世に行なわれず、一両年にして止む」(大田南畝)と言われたが、実際、歌舞伎を観客席で観ているときには美しくみえる役者も、テレビ中継でズームアップされると、正直その形相にギョッとすることが少なくない。だから、写楽の絵には「そうそう、今の女形も二代目山下金作のようなおばさん顔の人いるよねー」と納得至極で面白いのだけれど、自分のアイドルをけなされた人々にとってただごとではなかっただろう。そのことは、同時代の浮世絵師の見目麗しい役者絵と見比べることでいっそうはっきりとする。
 なにはともあれ、写楽作品は怒ったファンに焼かれることはなく、後世の私たちに無事に伝えられた。最強の浮世絵作品展に何度でも足を運びたい。
(取材協力:森聖加)
 
  会期:2011年6月12日(日)まで[休館日 5月16日(月)、23日(月)]
  会場:東京国立博物館 平成館 http://www.tnm.jp/
 
 
 
「三代目 大谷鬼次の江戸兵衛」(左)と「初代市川男女蔵の奴一平」:1枚の絵として独立しても素晴らしいが、写楽は歌舞伎の演目の流れも理解しながら描いていることを、この展覧会は分りやすく展示してみせる(Beats21.com)
 

 
左「高島おひさ」と右「婦女人相十品 文読む女」:歌麿の、凄いとしか言いようのない作品たちが、写楽の「前座」として展示されている(Beats21.com)

( 2011/05/10 )

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