上々颱風LIVE「デビュー20周年記念!スペシャル」を観て
 上々颱風がCDデビューして2010年で20年になる。
 かつて、彼らは「紅龍&ひまわりシスターズ」と名乗り、その頃はどこにも属さない楽隊だった。今回の記念ライブはそんなCDデビュー以前の曲目も昔を彷彿させるアレンジで聴かせるなど、彼らの歩みを振り返るにふさわしい内容だった(6月6日@世田谷パブリックシアター、2日間公演の最終日)。 
 ゲストは吉田日出子。「上海バンスキング」などの舞台で鳴らしたこの女優も、さすが「怪物」の片鱗を見せてくれた。
 ひまわりシスターズの結成当時はまるで無名、しかもどのジャンルにも混ぜてもらえなかったこのバンドが、80年代の「ワールド・ミュージック・ブーム」の渦中において注目の的となる。上々颱風はその後、『平成狸合戦ぽんぽこ』などの映画や舞台音楽を手がけて独自の地位を築くまでになっていった。和洋折衷、古今東西のまぜこぜ…な音楽性。加えて、ストリートなる英語表現よりも、「ミカン箱の上」で歌ってますという日本〜アジア〜世界各国の放浪芸の精神を手本とするその姿勢からは、わかりやすく、悲喜こもごもの陰影を背負った「大衆」とはどのようなものであるかが浮かび上がるのだった。ザ・ビートルズの「レット・イット・ビー」をまるでニッポンの盆踊りのように変え、自分たちのフトコロへ入れてしまうところなどは、本当に上々颱風らしい。
「レット・イット・ビー」は、もちろんラスト・パートで歌われたが、彼らの先達に対するこういった表敬、あるいは「本歌取り」は当夜も随所に見えて、その際立った例が西川郷子のソロ「おひとりさま」だった。結成当初から歌に専念することが基本だった西川が、舞台に激しく倒れ込んでまで「一人者の女の寂しさ」を歌い上げたこの演歌は、彼女の新ネタ・ゲットの瞬間であり、会場は割れんばかりの拍手と笑いの渦に包まれた。北原ミレイや八代亜紀ら70年代演歌が持つダイナミクスを、清廉な声質の西川にそのまんま担わせる。そして西川は、モテない女の笑うしかない人生をキツネツキにでも遭ったかのようにどっぷりと嘆きクドくのだった。それはまさしくリーダーであり作者でもある紅龍の「大衆ってどんなもの?」の、一つの結晶と言ってもいいだろう。西川郷子の歌の向こうに、ミレイが亜紀が、ヒタイに青筋立てて歌っている姿をイメージさせながら(これは歌における借景、と言えるのかも)、そのオリジナルのマジさを、「アラフォー」という今の世相と対比させる。
 だが、芸って恐いと思わせたのが、ゲストである吉田日出子だった。彼女は、上々颱風をバックに実質2曲歌ったのだが、彼女のドーン!と通るその声で、会場の空気は一変してしまうのだった。いや、声は可愛いの。でもキューティたっぷりのその声の中に隠された、ぶっと〜い根性。これが迫力。西川郷子も、全体を仕切るもう一人のボーカル、白崎映美の頑張りも、吉田が声を出すと霞んでしまう。そう、西川も白崎も、二人が歌っているのは「娘」なんだね。年を重ねても「娘」の感性で歌っている。ところが吉田は「女」。それも百戦錬磨であることを、すべて美しいそのチャイナドレスに隠して「可愛い女」を演じている「女」なのだ。吉田日出子はコワい! 
 でも、ならば西川&白崎は今後、「女」としての「修行」を積むべきなのだろうか?……それは、う〜ん、やっぱ不幸になるだけでしょうね(笑)。 
 この20年である。河内音頭や韓国芸能、沖縄の島唄、アフリカ音楽、ラテン・ミュージックなどなど、さまざまな要素を取り入れてきた上々颱風だが、もう一つ指摘できるのは、演劇的舞台空間のあり方をこれまで経験的に学んだことだろう。大ベテランの女優、吉田日出子との付き合いでもわかるように、その積み重ねは、今回の舞台進行、バンド編成をいくつにも変化させることなどにもはっきりと出ていた。またそういう流れを彼ら自身が楽しんでいるのがいい。
 よぼよぼのジジババ・バンドになっても「おひとりさま」や「渋茶でチャチャチャ」や「当り前だ節」「アジアのこの街で」などで我々を楽しませてほしい上々颱風である。
 祝20年!
<補足>紅龍が初ソロ『バルド』を完成させた。フォーク育ちの彼が、世界の反体制派と呼ばれる「世直しを求めた歌手たち」に捧げる熱い内容となっている。発売は未定だが、近々にそのインタビューを御紹介しよう。
(文・藤田正)
 
上々颱風「花園神社七夕コンサート 2010」
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( 2010/06/08 )

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