「あの時代」は、放送にかからない歌がずいぶんあった。さらに、「これだったらメディアにのらないだろう」というような、いわば確信犯的な歌を作るシンガー、グループもあった記憶している。1960年代後半、学生運動がありベトナム戦争が混迷を極めた、あの時代のことである。
2005年初春に公開された『パッチギ!』(
井筒和幸監督/写真)は、「あの時代」の京都を舞台にした話題作である。この映画の中でテーマ曲となるのが、フォークルで有名になった「イムジン河」である。
同映画の製作ノートによれば<イムジン河(ハングルで“イムジンガン/臨津江”)は朝鮮半島を分断する38度線を北から南へ流れる川であり、この川をモチーフに南北分断の悲しみを唄った曲(詞:朴 世永/作曲:高 宗漢)の名前でもある。日本では1968年に松山猛の訳詞でザ・フォーク・クルセダーズ(以下フォークル)が発売を予定してシングル盤13万枚がプレスされたが、レコード会社が直前に発売中止を決定した。関係者全員が朝鮮民謡だと思っていたために作者名の明示がないのと日本語詞が忠実でないなどの抗議を受け、政治的な配慮をしたためだ>とある。
同時期の、同じく京都のフォーク世代から世に広まった「
竹田の子守唄」と、事情は朝鮮問題と部落差別と異なるが、どちらも関係者の「配慮」でいわゆる「禁止歌」となった歌である。
祖国統一を願うこんなに清純な歌が、国家によって葬り去られる。
なんという時代…と思うのはたやすいが、はたして現代のほうが「歌の状況は深化(進化)している」のだろうか?
そんなことを考えさせられる「イムジン河」である。
フォークルのシングル「イムジン河」(写真)は、「はしだのりひこ」が加わった3人組フォークルの録音。歴史的な大ヒット「帰って来たヨッパライ」に次いで出そうとしたセカンド・シングルで、発売中止となったいわくつきのもの。
アルバム『ハレンチ』に収録されている同曲は、オリジナル・レコーディングで、朝鮮語でも歌われている。時代の息吹、それこそ破廉恥な野郎たちの、反権力の気概を聴くのであればこれは名盤中の名盤である。
(藤田正)
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