古謝美佐子の新作がようやく完成した。
出来上がったのは、シングル「黄金ん子」(4トラック)と、「黒い雨」(2曲/6トラック)の2枚。レコーディングにしてもライブにしても、急ぐことなく、プロデューサーの佐原一哉と共にじっくりやっていこうとする彼女らしく、どちらも心のこもった作品となった。
また同じディスク・ミルクから、古謝と共にネーネーズのメンバーだった比屋根幸乃のソロ・シングル「島ぬ姿」(2曲/4トラック)も発売された。
今年(2005年)は、CDブックも制作にかかるというから、彼女の周辺はにわかに忙しくなってきそうだ。
シングル「黄金ん子」(くがにんぐゎ)は、名作「
童神」(わらびがみ)から、上江洌清作〜
モンゴル800との共作「百々」(もも)と続く
子守唄シリーズの1曲で、すでにテレビでは彼女のドキュメントの中で紹介されていた作品である。読んで字のごとく、子を玉のよう黄金のようだと大切に思う親の真心を、まっすぐに歌い上げている。
作詞・
古謝美佐子、作曲とプロデュースは佐原一哉といういつものコンビ。9分に及ぶトラック2の<お休みバージョン>は、シンガーとしてよりも先に、女性・母・祖母としての「美佐子」という存在だけで赤ちゃんに歌いかける……そんな、生の人間が見える素晴らしいレコーディングである。
この「黄金ん子」と、対をなすのが「黒い雨」だ(CDの表記「くろいあめ」はデザイン的な扱いであり、CD表記も曲名も同じく「黒い雨」だ、ということです)。
「黒い雨」は、もともと江州音頭(ごうしゅうおんど)の音頭取りである奇才・桜川唯丸(さくらがわただまる)のために佐原一哉が作った反戦歌、戦争恨み節だが、この歌はまた古謝の舞台でも重要な1曲としてファンには以前から知られていた。
嘉手納基地の傍で生まれ、基地のために父親を亡くし、そして今も基地の傍に暮らす
古謝美佐子。彼女は舞台の上から、沖縄ではまだ戦争が続いている、だからどうかこの小さな島を助けてほしいと訴えてきた。その時に必ず歌われるのがこのバラードなのである。
トラック1のスタジオ・バージョンから、語りが入ったライブ・バージョンへと移れば、誰も涙なしに聞くことはできない。
トラック4の「PW無情」は、戦後沖縄で最初に作られたという歴史的な歌。収容所に入れられたウチナーンチュの捕虜(Prisoner of War)たちが、恨めしや沖縄が戦場にさらされて……と詠んだ。
「黄金ん子」「黒い雨」ともども、命がテーマ。
古謝&佐原のコンビだからこそ作れた、と言える、とてもプライベイトな温もりがする2枚である。
ちなみに、「黒い雨」を収録した桜川唯丸の名作『ウランバン』も、佐原の手によって近日、再発されるとのこと。
比屋根幸乃(ひやねゆきの)のソロ・シングル「島ぬ姿」(しまぬしがた/2曲/4トラック)も同じく、ディスク・ミルクから発売された。プロデュースは佐原一哉と、江州&河内音頭時代でも佐原と一緒だった盟友・石田雄一。タイトル・ソングは古謝・佐原コンビによる。
ネーネーズ時代から、かわいいキャラクターだった彼女だが、「島ぬ姿」は声に適度な重さとしっとり感が出て、これがいい。故郷(島)を離れて本土で暮らす我が身の思いを、切なく歌い上げる。トラック3「永良部百合の花」も、いいノドだ。
*CDの入手方法:「黄金ん子」「島の姿」は、現時点では
古謝美佐子関連のライブ会場のみの販売。「黒い雨」は2005年7月2日から、一般発売となる。ライブ・スケジュールなどに関しては、彼女のオフィシャル・サイトへ。