品川プロデューサーは、「子守唄にはいろんな種類がありますよね。子どもをあやすだけではなくて、言ってみれば労働歌もある」と言います。初孫の成長を願い作られた「童神」のような歌だけではなく、「竹田の子守唄」のように守り子として働くその労働の辛さを色濃く滲ませた歌もある。だから花*花には、自作曲に対するイメージもふくめて、品川さんはいろいろなバリエーションを提示したと。
結果として『コモリウタ』は、「朱い馬」(こじまいづみ作詞作曲)という、恋人との大切な夜の時間を奪い去る謎の馬をテーマとした都会的な作品があるかと思えば、沖縄の「童神」もフォーク時代の「竹田の子守唄」もある、といった5曲入りながら音楽的に幅の広いミニ・アルバムにしあがったというわけです。
「竹田の子守唄」の選出について、品川さんは自分の経験がその背景にあったのではないかと言います。現在39歳、「竹田の子守唄」を教科書で習った世代として、その後なぜ歌が消えていったのか、あるいは忘れ去られたのか、彼としてはこのままで終わらせたくない気持ちが自分の心の中にもあったはずだと分析します。
「何かを訴える、という立場のシンガーではなくて、健康的で優しいイメージの二人が、この歌を改めてうたうのことは、逆に適任じゃないかと自負していますね」
つまり品川プロデューサーは、「竹田の子守唄」が被差別部落にまつわる問題を契機とし 巷 から消えたことを認識した上で、花*花にマイクの前に立ってもらったのでした。これはある意味、大手レコード業界の常識とすれば「過激」な判断と言えるかもしれません。そしてこの判断は、品川さんのパンク・バンド時代の過去が、微妙に影響していることがわかりました(連載4へ続く)。
Amazon.co.jp−『竹田の子守唄 名曲に隠された真実』
Amazon.co.jp−『花*花/コモリウタ』