「VOJA」
十月十五日(月)
日経のアラン・ローマックスの書評が終わったら、コワモテの経済評論家、佐高信さんたちがやっている週刊金曜日の締め切りがやってきた。ここにはCDを紹介する小さな受け持ちコーナーがあって、今回は?…ということで、亀渕友香さんのボイス・オブ・ジャパン(VOJA)とか、御花米(みはなぐみ)とかをやることにした。
亀渕さんはゴスペル音楽を日本に流行らせた張本人だ。「竹田の子守唄」(元唄)を録音したときに、歌の地元・伏見でお会いしてからしばらくお目にかかっていないが、このベスト盤の音データは少し前に制作の温井亮…ぬくい・りょう…さんから送ってもらっていた。「りん」に触れながら、亀渕さんたちゴスペル合唱団VOJAは、なぜ歌うのだろうと考える。考えさせられるほどにベスト盤のクオリティは高い。彼女たちはゴスペラーズのように「ゴスペル風」にコーラスしているのではなく、キリストの福音を黒人たちの歌唱をもとに我々に伝えんとしている。彼女たちにとって、歌とは。声を口から発することって何だろうって、考えた。それで思い浮かんだのが…六波羅密寺には有名な空也上人の立像があるけど、念仏を唱えたら六体の阿弥陀さまが口から現われた、その空也さんの伝説のお姿って、金鼓を撞木でキンコン叩きながらの「こじきぼうず」なんだよね。大衆にとっての歌の原点って、これじゃないだろうか。そんなこんな。ウチナーンチュは知っているだろうけど、かのエイサーも、メドレーの最初はお念仏ソングだ。ご詠歌。ヤマトから流れ流れて琉球までやってきた「ぼうずたち」の影響をここにみることができるわけで、これって日本のゴスペル、福音の声を根っこに持つ。「竹田の子守唄」も、ゆっくりと歌えばわかるけど、これもご詠歌の末裔だ。そしてアメリカの(下層社会)の福音伝道もまさにストリート・レベルのゴスペル・シンガーなくして語れないわけで、このエッセンスがボイス・オブ・ジャパンとして日本語で聞けるというのは、不思議な気がする。時空を超えて…こんど亀渕さんと会ったときに「福なる音」のナゼを教えてもらおう。
「御花米」
十月十六日(火)
照屋林賢さんも彼女たちに御花米(みはなぐみ)なんて面白い名前をつけたものだ。今年の初め、北谷にある林賢さんのライブ・ハウスで会った二人。めちゃくちゃ若けー女の子なんだが、林助師の名作を何曲もカバーしていて、このアンバランスに笑う。笑うって、バカにしているんじゃなくて、オモシレーって感じ。だって林助さんの歌って、一般論を歌にしているようでいてかなり個人的体験がベースだから、そこにはヤングなギャルっちが歌っちゃぁまずいなーというのもあるわけね、実際。そのギリギリ感も、明るくすっとばしてみせるのがまた笑ってしまうのだ。
「敦賀原発」〇七年十月十七日(水)
日本海の荒ぶる波は漁火街道を南へくだり敦賀湾に入ると、突然のようにすべての波頭をなくす。静かな凪いだ海。町の入り口に巨大な火力発電所が見えてきて、そのずっとむこうに美浜と敦賀の原発施設がある。「りん」に初めて日本海を見せた日。