贅沢な一夜だった。
ジャズ・ピアニストの大西順子が現役バリバリのトップ・プレイヤーを東京に連れてきてライブをする。新作CD『Baroque』のプロモーションも兼ねてということなのだろうが、フロントのホーン・セクションにニコラス・ペイトン(tp)とジェイムズ・カーター(s,flほか)、ワイクリフ・ゴードン(tb)の3人が並ぶのだから豪勢なものである。それも9月30日のジャスト・ワン・ナイト。会場の渋谷・Bunkamuraオーチャードホールは当然の賑わいだった。
予定の開演を15分ほど過ぎたあと7人の男たちを伴って真っ赤なドレスの大西が登場した。立派な体格の黒人男性に囲まれた大西は文字通り紅一点。なのだけど、この大西というピアニストは豪胆な「腕力」を持つ人だから、やっぱりスタートからガリガリにすっ飛ばすのだった。白い肌にまばゆい赤のドレスは、ストロングな個性を隠すためにあったのか。大西のリーダーシップのもと(彼女の背中から「君たち、せいぜい気合入れてやんな!」というメッセージが読み取れる)、キューバン・ルンバを基本軸に男ども7名が混沌としたリズム&ソロ・バトルを繰り広げるのだった。コンガ(ローランド・ゲレーロ)とハーリン・ライリー(ds)に、もう一人打楽器奏者がいればさらに見事だろうとは思ったものの、アタマからコレだからね。当夜の8人は内部的にも最初から盛り上がっていたようで、いや、もしかしたらこの時すでに「失速」しかねない状態にあったのかも知れない。それほどにハード・ドライブしていたのだった。
曲はアルバム『Baroque』から選ばれたもの。大西の長年の相棒であるレジナルド・ヴィールに、ハーマン・バーニーが加わるダブル・ベースという構成も、実に巧みで、彼ら2人の前に立つホーンがまた素晴らしかった。男性的で汗が飛び散るようなサックス・プレイの(バス・クラリネットなども)カーターを舞台下手側に、真ん中に立つのが超売れっ子のニコラス・ペイトンである。ペイトンは終始、クール(オレが世界一、って感じね)。その音は静謐からクレイジー・トーンへと無理なく流れ、まったく凄いテクニシャンでありました。ワイクリフ・ゴードンのプレイもお見事。彼はミュート・トロンボーンの名手として有名だけど、全編にトーン&リズム・コントロールが美しいのだ……こういうことって、ライブだとさらによくわかる。
大西順子、その音楽的特質とは「情熱の演出」に長けたプレイヤーであるということだ。そして彼女の心の中にチャールズ・ミンガスがあることも、このライブはよく教えてくれた。あの、起伏に富んだリズムと多様な音楽的景色の切り替えの中から熱く燃える情感をあふれさせること、それはミンガス、なのだろう。先人を、大西は確かに受け継いでいる。
素敵なコンサートだった。
予断だが…(熱演のあまり?)ドラマーのハーリン・ライリーの腕がつって、交替するというライブを初めて目撃した。当夜を統括した千葉プロデューサーによれば「この人誰?」だったのだそう。でもこの男性(トミー・キャンベル)も上手いんだよね。なぜ? ふしぎー。
(文・藤田正)
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コンサートを終えて(by Beats21.com) |