ソウル・フラワー・モノノケ・サミット
Respect rec.
<1999年2月>
ソウル・フラワー・モノノケ・サミット」という奇妙な名前を持つバンドがある。ボーカルの中 川 敬なかがわたかしが中心となり、沖縄の三線や朝鮮のチャンゴ、チンドン屋の鐘や太鼓がバックをつけるという編成だ。
 そして彼らのセカンド・アルバム『レヴェラーズ・チンドン』(写真)には、次のようなコピーが付いている。
「…ヤマト・コリア・ウチナー・アイヌの民謡、革命歌、労働歌、壮士演歌等々、全十六曲のもののけ解放盆唄集…」。一曲目には「インターナショナル」、二曲目には壮士演歌の「ハイカラソング」、メドレーとなる三曲目の最初には「水平歌(解放歌)」が登場する。四曲目は「アリラン」だ。
 モノノケ・サミットは、ソウル・フラワー・ユニオンというグループの分派で、ユニオンの方はメジャーからアルバムを出し、モノノケの方は独立系からアルバムを出している。モノノケの結成は阪神淡路大震災における支援活動がきっかけとなっている。
 ぼくは今、解放運動をやっている方々の助けを借りて、日本や世界の「解放歌〜大衆歌」にどのようなものがあるかを調べているところだが、もちろん「水平歌(解放歌)」もその範疇に入っている。しかしこの歌を、運動に関わる当事者以外が歌う姿をこれまでぼくは聞いたことがない。ぼくの知るかぎり唯一の例外が、このモノノケなのである。いわば、不特定多数の観客を相手にするプロが取り上げない歴史的作品の一つが「水平歌(解放歌)」だが、彼らはこれを自分らの持ち歌としているというわけだ。
 モノノケ・サミットは先ほども触れたようにチンドン屋のリズム隊に、沖縄、朝鮮、そしてギター、クラリネット(この楽器もチンドン系だが)など洋楽器が混在する編成である。
 今の二十代以下の人たちがどう思うかはわからないが、ぼくのような四十代には、まずこのチンドン・サウンドが懐かしい。中川のヴォーカルは塩辛く、時に喧嘩を吹きかけてくるような荒々しさで歌いかける。彼の周りには女性のお囃子がいて、「はいや、いやさっさ!」と元気な掛け声を入れる。彼女たちはたとえて言えば、お祭りで体から湯気を上げる男たちに、いっそう燃え上がらせるための水かけ役といってもいいだろう。もちろんこの掛け声は、沖縄の「エイサー」から借りたものだ。
 モノノケ・サミットは、こういう懐かしさと男くささと祭りの高揚感をない混ぜにした一団と言えるのである。そして、彼らのイメージをさらに強調するのがレパートリーであることは言うまでもない。例えば彼らのデビュー・アルバム『アジール・チンドン』の一曲目は「復興節」だった。この曲は関東大震災の直後に作られた作品を中川が改作し、メジャーでは発売禁止になったシロモノである。阪神の復興を願った元気歌なのだが、こういう歌(…東京の永田にゃ金がある/神戸の長田にゃ唄がある…)ですら、社内かレコ倫の規制でひっかかるというのは、いったいどういうことなのか。同アルバムの最後には「竹田の子守唄」も入っている。これも昔のフォーク・ブーム(七十年代初頭)以来、いわゆる放送禁止歌として耳にすることが極端に少なくなった作品である
 たしかに、取り上げた作品を見ていると左翼志向が強いとも指摘できるが、ぼくが思うに、モノノケ・サミットとは日本における歌の復権を目指している一団のはずである。大衆が好んで歌っていたものが、なぜ消えていくのか。消されていくのか。あるいまたは、歌うことがはばかられるようになるのか。
 モノノケ・サミットの熱は、そういう、日本の歴史に対する怒りの表出であるように、ぼくには思える。

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( 2003/04/18 )

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