「竹田の子守唄」というメッセージ・ソング(6) by 藤田正
日本レコード協会
レコ倫」は、一部のミュージシャンにとって「目の敵」と思われているフシがあります。アレはだめ、これもイカンと規制ばかりを押しつけてくる。はては発売が中止になることもある。みんなレコ倫が文句をつけるせいだ、と。
 はたしてそうなのでしょうか? 多くの人はレコ倫、すなわち「レコード倫理審査会」のことを多くの知らないのではないか。
 同審査会がある日本レコード協会へ行ってきました。
 取材には協会の丸山善光さん(業務部部長)が応じてくださいました。丸山さんはレコ倫を取りまとめる協会側の担当責任者です。
 丸山さんによれば、レコ倫は成人映画指定など強制力のある「映倫」(映画倫理管理委員会)などとは異なり、レコード会社の自主管理によって運営される機関で、相談機関、内輪の勉強会的な役割も担っているとのことでした。24社のメーカーが加盟し運営している同協会は、毎月1回のペースでこの審査会を開催します。会を構成するのは学識経験者4名に、加盟レコード会社の管理部の人たちです(学識経験者の名前は公表できないとのこと)。
 対象となるのは、原則として「邦盤の歌詞」。機関紙『マスコミ倫理』(2002年9月号)に載せられた丸山さんの文章「青少年のへの影響を重視」によれば、平成13年には8134曲の新譜の歌詞を審査し、「問題が指摘され、当該社並びに作詞家の判断で歌詞の一部を変更した作品は六作品であった」とのことでした。
DefSTAR
 審査会にかかり「問題が指摘され」た歌詞は、協会の事務局を通じてメーカーへ知らされます。「改善命令」を出すのではありません。あくまで、この歌詞で市場に出すか出さないかは、メーカーの責任と判断においてなされるのです。ただレコ倫は1955年に発足した歴史ある業界内の権威であることには間違いはなく、また審査会は単に問題ありと指摘するだけではなく、このままで発売すればどのような問題が起こるかという予測も伝えるがゆえに、会社側は軽視はできないというわけです。
 丸山部長は、「言葉狩り」にならないように気をつけているといいます。しかし、最近であればラップの歌詞などには「いいかげんにしてほしい」と思うものも増えているそうです。麻薬、覚せい剤の使用を助長するような歌詞、それもちょっと聞いてはわからないように英語のスラングを用いるなどして録音する。こういう歌詞が最近とみに目立つのだそうです。
 レコ倫とは関係がありませんが、近ごろのラップといえば、女性や同性愛者、HIV感染者を不快にするような歌詞がふくまれていたとして、メーカーが発売直後に自主的にCDを回収したキングギドラのケースもありました。これはリスナーによる、抗議、問題提起が発端でした。
(写真は、回収されたキングギドラの「F.F.B.」)
関連サイト:
Beats21
 レコ倫はこれまで差別問題には特に気を遣ってきたと丸山さん(写真)は言います。
 レコ倫は1955年に発足していますが、50時代から70年代にかけては、労働運動や学生運動が激しさを増しただけではなく、部落差別の撤廃を求める運動も活発化した時代でした。就職差別や結婚差別ほか、人間として当たり前の権利を踏みにじられた部落民が差別の解消を叫んだのです。差別される側からの運動なり行動は、もちろん今も続いていますが、レコ倫は発足の当初から言葉による人権侵害を食い止めようとの理念を持っていました。
 私は、大手レコード会社の管理職の中には、部落問題について今も「関わりたくない」という態度の人もいるがと質問したところ、丸山さんは、そのような人には当時の記憶がまだ頭に残っているからじゃないかと説明してくれました。つまり、就職差別撤廃を求めるなど、日本の企業一般に対して広く活発に行動したあの時代のイメージが強いのだろうとのことでした。
 レコ倫はこれまで色々な勉強会を催してきたそうです。また時代も人権に関する認識が深まったことによって、レコ倫が携わる言葉の問題にしても、レコード業界内部ではずいぶん改善されてきたと丸山さんは言います。ただ、先のラップの歌詞、アニメ系に多い暴力的な歌詞など、問題が消えたわけではありません。    
 先ほども説明したように、レコ倫はレコード協会に加盟する各社(いわゆるメジャー)による自主管理のための組織です。
 ゆえに、レコード協会に属さない会社や組織は、レコ倫とは関係がありません。レコ倫が、CDなど音楽ソフトを発売するすべての会社、アーティストに対して直接的な影響力を持っているというのは間違いです。
 反対に、レコード会社のスタッフが、レコ倫の「威力」を利用して歌詞の変更をうながすことがあるようです。ちなみに私の知るところでは、「レコ倫にこう変えろ」と言われたからと、歌詞の制限や変更をアーティスト側に求めた例をいくつか知っています。その中には、レコ倫と関係がないはずのインディーズでの例もありました。
 レコ倫は、協会に加盟する各社が発売する歌詞に関して検討するための機関なのに。つまりここで問題になるのは、レコード会社によって、またそのスタッフそれぞれに、この言葉をどう認識するかという1点においても温度差があり、それゆえ自分たちの判断を、ある時はレコ倫のせいにして、ミュージシャンや現場責任者に押し付けることがあるということです。
竹田の子守唄」が、「誰」によって表舞台からの退却を余儀なくされたのかが見えない、というのは、こういう背景もあるのです。レコード会社のスタッフが「被差別部落の歌であるのなら、とにかくヤメろ(あるいは、歌詞を変えろ)」と判断し、それをレコ倫からの「お達し」にしてしまう…ことがある。このような構図。
 丸山さんは一般論として、「レコ倫がスケープゴートにされてもかまわない。CDが発売されてから、人を傷つけ、様々な問題が起きるよりもずっといい」と言います。自分が気づかぬうちに他者を差別をしていた、というよりも、問題ありと先に指摘することで「特に若いミュージシャンたちが、人権の大切さを学んでくればいい」と。
 音楽も言葉も、激しく変化する今、レコ倫はこれまで以上に重要度を増す機関なのかもしれません。
(取材:2003年3月25日 協力:新屋泰造氏=社団法人日本レコード協会)

( 2003/04/03 )

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