「Save The Coral 2008」の最初のイベント、「
よなは徹 海をうたう」が無事、終わった。会場となった渋谷の有名なライブハウスduoは満員となり、イベンターでもないアマチュアによるライブとしては、成功と言えるのだろう。とにかく、ほっとしている。
「Save The Coral 2008」は、モロに友人&知人のネットワークによって成り立っている。それが有機的に結びつけば、どのようなものが生まれるのか「それを試している」…とも言えるのかも知れない。
そんな、仲間と、やるか? と決めてからこの3月5日まで3カ月。その間に、環境省から「協力」、沖縄県から「後援」の言葉をもらい、またアジマァ(照屋林賢さん)や吉本興業(ガレッジセールさん)の全面的なバックアップも得て、生まれて初めての
記者会見までやった。二つ返事でライブ出演をOKしてくれた
よなは徹さんほか、いろんな人たちに感謝しなくてはならない。duoは、ハナから会場費を無料にしてくれた。加えて、どうせ何もわからない藤田たちだからと、会場のスタッフは気を利かせていろんな協力をしてくれた。すごいことだとぼくは思った。
現在のサンゴ礁の問題は、結局のところ「人間がおかした罪」に帰結する。であるならば、ぼくらはもう一度、ぼくらを見つめなおさなければならない。そのために、沖縄の歌は、欠かすことができないとぼくは思う。
なぜなら、少なくともこの日本において、今でも「自然」やら「親の愛」やら「年中行事」「祝いごと」やらを当たり前のこととして歌にし、しかもそれが百年も二百年もの過去との結束をも意味するという文化は、「あの南邦」あたりにしかなくなってきたからだ。ぼくらが沖縄音楽に惹かれる根本は、そこにあるんじゃないか。失ったもの、自分たちで消し去り、汚した証拠が、あの文化を鏡にし浮き上がる。それは懐かしさと言ってもいい。「理想郷としての沖縄」…ではなくて、青い海の下の白化サンゴにニンゲンを見る。そのために、沖縄の歌が、ぼくらには必要なのだ。
3月5日の
よなは徹さんは、そこのところをよく考えて来てくれた。
前日の3月4日が「三線の日」。彼はこの盛大なイベントのカナメの一人だから、当日は丸一日沖縄にいて、ほぼ徹夜状態で飛行機に乗ってくれた。
真栄城雅子のデザインした会場(沖縄のウタキ〜拝所をイメージ)に、照屋林次郎の三線を置いて、よなはさんも林次郎によるむちゃくちゃかっこいい新作三線を持ってきてくれた。
よなはさんは、第1部を「全曲、古典でやります」と言った。
たった一人で、それもナマでやってくれ(あんたはそれくらいやれる実力者じゃないか)…このようなぼくからの「脅迫」を、彼は、「感じることだけ」を観客に要求する琉球古典音楽を舞台にかけることで応じたのだ。
組踊「
手水の縁」における難曲(干瀬節、
仲風節、
述懐節)が、渋谷で聞くことができる。これは信じられない選曲なのだ。正装で、かしこまって、国立劇場あたりでしか見ることのできない名作「手水」の、中でも一番に美しい3曲を、この31歳の若者は凄まじい緊迫感で歌ってみせた。
彼は一言も解説めいたことは言わなかったが、島を想って来てくれた渋谷の観客に対して、せいぜいの感謝を捧げていたのである。
徹底して静かなライブ・ハウスだった。duoの2階からはロック・バンドらしき重低音がぼくらの会場に響いていたけれども、よなはさんはずっと三線一本で歌い続けた。徹底して、ね。それは、ぼくが一番に望んでいたことだった。
第1部が古典なら、第2部は島唄。大半は
雑踊からの選曲だ。「揚作田(あぎちくてぃん)節」「鳩間節」「谷茶前(たんちゃめー)」「海ぬチンボーラー」…海と共にあった沖縄だからこその伝承歌〜ダンス曲を、彼は実にしっとりと歌い上げてくれた。ぼくは楽屋で彼に向かって、「あなたが老人になるのが楽しみだ」と言ったけれど、彼は年輪を重ねるごとに良くなる。そんなよなはさんの歌声だった。
そしてラストが、「Save The Coral 2008」のテーマ・ソングである「あんやんてぃんどう」。
照屋林助師による、「
黄金三星(くがにみちぶし)」に並ぶ、島唄の傑作。文句なし。よなはさんが、最後にぼくの島をよろしくと語っていたが、この言葉に応える会場からの温かな拍手が、すべてを物語っているように思えた。
藤田正(「Save The Coral 2008」)
*
曲目リスト:
<第1部>
若衆特牛節
組踊「
手水の縁」から…
干瀬節
仲風節
述懐節
諸屯節
<第2部>
揚作田節〜伊集早作田節
鳩間節
谷茶前〜伊計離節
海ぬチンボーラー
北谷ナークニー
<アンコール>
あんやんてぃんどう
*
「Save The Coral 2008」テーマ・ソング
あんやんてぃんどう
<対訳>
島の香ばしさよ
山々の新緑から立ち上る香気
そうだってね 緑の香ばしさだよね
海の清らかさよ
サンゴが花を咲かせてこそ 海は清らか
そうだってね サンゴの清らかさだよね
家庭の功(いさお)とは
日々の語り合いがあってこそ
そうだってね なにより語り合うことだよね
国のことを思うと誇らしい気持ちに
政治(家)の心に情けがあれば
そうだってね 情けが第一だよね
頼りになる世界とは
武器を捨ててこそ頼りになる世界
そうだってね 平和が第一だよね
宇宙の嬉しさとは
あるがままの姿こそが嬉しさに
そうだってね 自然が第一だよね
CD『67の青春/
照屋林助』(アジマァ/りんけんレコード)収録
プロデューサー:藤田正 ミュージカル・ディレクター:照屋林賢
制作:1995年
amazon-『67の青春/照屋 林助』
毎日新聞の記事:
http://mainichi.jp/life/ecology/news/20080306org00m040012000c.html