インタビュー:藤田正 「海の日、サンゴの日」総合プロデューサー
海の日、サンゴの日」の総合プロデューサーである藤田正に、イベントを終えての感想や、今後の展開について話を聞いた。
(インタビュー、まとめ:森 聖加)

記念写真:沖縄サンゴオールスターズほか主要関係者
(by 垂見健吾/STC08)
 
 
−「海の日、サンゴの日」が終了しました。お疲れ様でした。イベントを終えての感想を聞かせてください。

藤田 まず、無事に終えることができてよかったと思います。参加者には子どもたちが多かったし、当日は、ものすごい暑さでした。会場には救護班を置いていたのですが、救護の方の出番がなく済みました。イベントの中味についても、バリエイションはあったし有意義なものがやれたと思います

―スタッフは、みなさんボランティアだったのですか?

藤田 音響関係や警備、駐車場と会場をつなぐシャトルバスなど、プロの方々にお願いした部分はいくつもあります。事故や混乱を未然に防ぐためにもアマチュアには任せられないですからね。ただ、音響にしてもバスにしても、やってくださった会社にとっては、赤字覚悟、という感じでしょう。だからほとんどがボランティアの力で成り立っています。出演されたアーティストの方々にも「泣きついた」というのが実情です。

―「海の日、サンゴの日」はサンゴをテーマにしたイベントでした。沖縄のサンゴ礁は、危機的状況にあるのですか。

藤田 たとえば本島周辺のサンゴ礁が危機的な状態にあることは多くの人が知っているとおりです。会場となった万国津梁館の周囲の海も、あんなに綺麗なのに同様の問題をかかえています。
 そして、海の中がひどくなっているということは、我々が住む陸地も楽観的な状況にない、ということでもありますね。沖縄のサンゴや、自然を語ることは、沖縄という地域で生きること全体を見直すことでもあります。その視点が日本を、ひいては地球を考えることにつながる。
 ぼくは沖縄に友人が多いけれど、みんな、沖縄の海やサンゴのことを気にかけていました。何かをしなければいけないと考えてはいたが、何をしていいのかわからなかった。そんなところへ誰かが「やろうよ」と言葉をかけてまわった、ということでしょう。
 今回は万国津梁館という、沖縄を代表する象徴的な場所で開催できたことに大きな意義があります。一晩ワイワイ騒いでおしまいのようなパーティー・イベントではなく、フォーラムがあって絵画展があって音楽があふれていて、そして子どもから大人までみんなが、一つのテーマの下で一日を過ごすことができる。そうした環境イベントは、いままでにはなかったものらしくて、多方面から評価を得ているようです。

―深刻な問題を扱いながらも、イベントは明るく、開放的なものでした。

藤田 それは一つに、リーダーであるぼくの性格が関係しています。深刻な問題を、そのまんま「深刻だ!、大変だ!」とはできない。映画監督の性格が作品に反映されるように、イベントにもリーダーの性格が反映されてしまうのでしょう。
 もう一つは、環境問題を難しく、あるいは専門的に語るのは、我々の役目ではないということです。そんなイベントをやっても、一般の人、子どもたちはなかなか関心を示さない。
海の日、サンゴの日」、あるいはその母体である「SAVE THE CORAL実行委」というチームは、ぼくと同じような、専門家でもない一般人が中心となっています。そんな素人でも、サンゴの問題を自分のこととして考えることが大切です。
 あえて言いますが、今回、参加していただいたアーティストのみなさんには、人寄せパンダの役割をお願いした部分があります。みなさん、それをよく理解してました。ぼくは、ぼくが一流と認めるアーティストを選び、声をかけて出演をお願いしました。りんけんバンド、ガレッジセール…彼らは応援団長でもあります。よなは徹、久場政行、名嘉睦稔、仲地のぶひで、照屋林次郎…といった方々。さらに島唄の最高峰である登川誠仁先生。園田エイサーの青年会と子供会だけで計130人。こんな凄いメンバーが、なぜ「海の日、サンゴの日」に集まるのだろうか? まずはその疑問が、人の興味につながる。
 明るく、楽しい、彼らの歌や話を聞いたり、美しい作品を見たりするなかで、「なぜ、ここに白い風船があるんだろう?」と思ってくれれば、第1回目としては成功なのではないか、と思っています。

―「白い風船」は、サンゴを表しているのですね?

藤田 そうです。死に瀕した、白化サンゴを象徴しています。エコな素材を使って、いちばん手軽に、そして安く、白化サンゴを表せるものが「白い風船」でした。
 会場デザインは、「SAVE THE CORAL」のロゴマークからチラシまで、イベント全体のデザインを担当した真栄城雅子が考案し、私の友人である佐藤卓さん(グラフィックデザイナー)に相談をしたうえで、実行に移しました。
 万国津梁館は、美しい建物です。美しすぎるといってもいい。そこに、他のイベントでよく見られるように、何本ものぼりを立てては、デザインが壊れてしまいます。ダイレクトにサンゴの窮状を表現するより、より象徴的にサンゴを表すために選んだのが、「白い風船」でした。

―もう一つ、イベントの象徴としての、テーマ・ソング「あんやんてぃんどう」があります。

藤田 ここでは名前を明かすことはできませんが、テーマ・ソングは、日本を代表するある高名なソングライターの方に依頼をしてはいたんです。新作がいいと思ってね。でもいいものが上がってこなかった。
 ぼくが最後の最後で頼ろうと思っていたのが、今は亡き照屋林助先生の名作「あんやんてぃんどう」でした。「SAVE THE CORAL 2008」の最初のイベントとなった3月5日のよなは徹のソロ・ライブでも、最後に徹君は歌ってくれた。「海の日、サンゴの日」では、真栄城隆司先生の指揮による那覇シティ・アンサンブルをバックに、改めて徹君が歌ったし、オーラスは主要メンバー全員(沖縄サンゴオールスターズ)による大合唱。この歌に勝るものはないと思いましたね。
 この歌には、自然と共に生きることが大切だ、と明快に歌われています。また、「海が美しいのは、サンゴがあってこそ」と2番の歌詞にあり、それが普通の言葉でいえるのは、やっぱり沖縄だからこそだと思います。

―コンサートでは、みなさん海や自然に関する唄をうたっていたのですか。

藤田 そうしたお願いはしていませんが、みなさん、なぜ自分がこのイベントに誘われたのかを理解して、ステージに立ってくださいました。登川誠仁先生は、全曲、海にちなんだ唄を選んでうたってくださった。沖縄の自然の美しさ、そして素晴らしさをテーマにしたご自身の作詞・作曲である「緑の沖縄」もその一つです。
 りんけんバンドの登場の際に流れていたインストの題名は「万国津梁」です。沖縄の歴史、そして会場を象徴する曲ですね。
 最後の「あんやんてぃんどう」の合唱ですが、ぼくは、世代を超え、みんなで一つの歌をうたうことで一日を終えたかったんです。ガレッジセールはコーラスと指笛で、よなは徹さんや園田エイサーの地謡(ジウテー)である久場政行さんほか、みんなが寄り添って一つに、というメッセージです。
 沖縄の自然は美しいけれど、考えなければいけないことがあります。
 第1回目としてはいい終わり方ができたと考えています。

―さて、来年、第2回目は行われるのでしょうか。

藤田 第2回目ですか……難関ですね。
 何度もいうように、お金がないからね。1回目は、みんなの友情に、特に沖縄の方々の情熱に支えられ成功したんだと思います。だだし同じことは二度できない。
 確かに2回目は1回目以上にいろんなことをやりたいし、次はこうしようという素案もすでに作ってあります。
 が、世の中はそんなに甘くないんだよね。ぼくらのようなアマチュアの集合体が、今回のようなイベントを切り盛りするのは、とても厳しい。やるなら目的意識をしっかりと持って、なおかつちゃんと世に問うものを作らなくてはならない。
 だからなんといっても、資金です。
 仲井真沖縄県知事をはじめ、関係者のみなさま、ご理解のほど、どうかよろしくお願いいたします。
(2008年8月7日、東京で)

( 2008/08/08 )

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