3月3日 しょうちゃんの蛇に三線/藤田正
 
三月三日(木)

 
 07年に篠原有司男さんのことを本欄で書いたことがある。
 先日、ひさしぶりに彼の奥さんである則子(乃り子)さんから連絡があって、岡本太郎の生誕100年を記念するイベントのために二人で来日するとのことだった。
 その川崎市岡本太郎美術館で行なわれる「講演&ペインティング」では、有司男芸術スペシャルであるパフォーマンス「ボクシング・ペインティング」が見られるんじゃないかと思って、向ヶ丘遊園まで出かけたのである(2月27日)。
 
「森の掟」(1950年、川崎市岡本太郎美術館)
 
 前衛芸術家としてニューヨークでずっと活動している篠原さんは、しゃべることよりも、絵を描く(パフォーマンスをする)ことが第一ではあるのだが、早口であちゃらこっちゃらへと脱線するトークにも魅力があった。特にゴッホ最晩年の自画像「青い服の自画像」(1889年、オルセー美術館)の解説は、第一に興味深かった。つまり、充分な絵具を買うカネもないゴッホだから、この自画像においては肝心の目だけはきっちりと絵具を使い、周辺は、残り少ない絵具を指ででも掻き出してざっくりと塗っている。その気迫とゴッホの生活の窮状が、圧倒的だと篠原さんは言っているようだった。「ぼくはアーティストだからよくわかるんだよ。キャンバスの端っことか、周りの背景とか、ゴッホがどう描いているか」。これは篠原夫妻自身がニューヨークで大変な貧困生活をしていたこととリンクしているのである。
 
篠原版「森の掟」(2011年、撮影=Beats21)
 
 反対に、と言っていいか(話がとっちらかるからよくわからないのだが)、前衛芸術家といってもスター的な存在だった岡本太郎は篠原さんにとっては、ま、どうなんでしょうね〜という評価だったんじゃないだろうか。岡本の代表的一作である「森の掟」(1950年、川崎市岡本太郎美術館)にしても「感動しなかった」と笑ってたし……ただ、ニューヨークで厳しい生活を送っているとき、日本から発せられた岡本太郎の前向きな言葉には勇気をもらったとは言ってたけど。
 芸術家は何といっても「自分が一番」だから。
 ボクシング・グラブの先に縛り付けたスポンジに墨汁をふくませて、キャンバスを叩きつける「ボクシング・ペインティング」も、「オレはここにいる!」と存在を高らかに宣言するための<アート>だった。まずは館内で「森の掟」を岡本太郎はどのように画いたかを実演し(これはパロディ行為なのだろう)、その絵を戸外でぶちのめす。
 鑑賞するなんてお行儀のいいこと、やめにしよう。ボクシング、楽しいじゃん!
 ……という<アート>。
 面白かった。
 
篠原版「森の掟withボクシング」
(2011年、撮影=Beats21)

( 2011/03/03 )

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