「アレックス・コックス」
一一月二十日(木)
アレックス・コックス監督の新作『サーチャーズ2.0』を観に出かけたら、監督自身が試写会場に来ていろんな質問に答えてくれた。コックス監督は『レポマン』『シド・アンド・ナンシー』などで知られるが、この人はもろに左翼のリバプール人で、以前、ニカラグアのサンディニスタ政権をテーマとした『ウォーカー』という作品も作っている。『レポマン』のおかげて充分にメジャーで活躍できる可能性があったのに、いわゆる「ハリウッド的な世界」とは異なる立場を取り、そのために「インディーズ」として映画を作らざるを得なくなったのだ。
監督は、ぼくはそれでいいんだ、というような発言をしていた。
もちろんそれでいいんである。ハリウッドなんて、現在の世界的経済破綻の根っこと同じ下賎な投機だけで動いているわけであって、つきあう必要なんてない…が、つきあわないと決めたら、いかに才能があるといっても、もろにゼニの問題にぶち当たるのだった。
たとえば「
9.11」以降のアメリカのクレイジーぶり(あるいは世界史的な没落)は、冷静に見つめれば明らかなことであって、これを映画に描きたいと思うコックス監督はマトモな心をもった人物だと思う。新作も「
9.11」以降のアメリカの、浅ましい思考体系を見事に描いている(ただこの映画は、監督ならではの映画フリークのための趣味&コメディ映画、という部分も濃厚ではある)。でも、メジャーでは無理なんだね。壁が高くて厚すぎる。だからコックス監督も、アメリカではフィルム上映ツアーをやるみたい。資金を集めるためにインターネットで投資を訴えたようだが、これもなかなかうまくいかなかったようだ。ちなみに新作の題名にある「サーチ(探す)」というのは、ジョン・フォード監督の『ザ・サーチャーズ(捜索者)』の本歌取りであると同時に、製作資金を探す、という意味も込めているのだそうだ。大変なんだね〜。
でも、こういうことを、明るく笑いながら語ってしまうコックス監督って、(スーパー・メジャーにはなれないのかも知れないが)、ぼくらの側のフィルムメイカーって感じがするのだった。ちなみに『サーチャーズ2.0』のエンド・ロールは、かつての『ザ・サーチャーズ』を筆頭とする西部劇の名所、モニュメント・バレーの空撮なのだが、これはリバプールの知り合いが撮影したプレイ・ステイション用ゲームの残り映像なんだって。カネがないんだね〜。
「ジャスティス(正義)、ガス(ガソリン〜石油)、リベンジ(復讐)」とは、この映画のサブタイトルのようなキーワードだが、「
9.11」で敵に攻め込まれたら、人間として復讐するのは正義なのだ。その復讐の場所から(アメリカ人が必要な)石油が採れるのであれば、なおのこと良いじゃないか…こんなリクツにならないリクツを平然と言ってのける登場人物との会話(脚本)は、さすがコックス監督という鋭さだった。
*2009年1月10日、公開
『サーチャーズ2.0』公式サイト:
http://www.uplink.co.jp/searchers/
amazon-DVD『レポマン (ユニバーサル・セレクション2008年第7弾)』