「伽羅」
一月四日(金)
本日のあさこさんは、伽羅を出してきた。有名な伽羅は、陳列棚越しに見たことはあるけれども、実際に使うなんてことは初めてだ。玄関からお茶室にかけて、うすく伽羅の薫りがただよってきた。伽羅は
真南蛮よりもさらに洗練されて、上品に甘い、と形容すれば一般の解説としてはすむのだろうが、けれども体験的感覚としては、ぼくが居るこの空間には何もないことを、その透きとおった「うすさ」で演出してみせている…薫りがかぎりなく遠くへ無へと近づいていったほうが、伽羅の凄みが引き立つ…というぐあい。外は北の景色、冬という寒い季節だが、そんな時と土地ならではのすごし方があることを、赤ちゃんの小指の爪のような香木に教えられたのである。沖縄の三線音楽には沈香の薫りを身にまとい舞う誇らしさを歌った一曲があるけれども、こういった琉球古典の静謐はあんがい、北国においてこそ新たな芽をふくのではないか、とも思った伽羅の香だった。