「サカイトオル」
七月八日(火)
ぼくの友だちには、どうかしている、という人がたくさんいる。
サカイトオル(酒井透)はそのトップを切るカメラマンで、つい先日、彼は『中国B級スポットおもしろ大全』(新潮社)という本を出したのであった。本は新潮社から送られてきたのでさっそく読んだのだが、あ〜ワウ輪ウ、呆れるばかりの「B級」「下世話」なオンパレード・ショットばかりで、笑ってしまったのである。膨大な数の便器を展示する博物館、なんて初めて知ったし、新聞ネタにもなったハゲ山をミドリ色のペンキに塗ってしまった現場やら、ディズニーやウルトラマンのニセモノが遊び道具として堂々と置いてあるあちこちの遊園地にも、サカイ君は出向いている。
あ、そう、と思う人は、ちょっと待ってほしい。彼は、そんなバカ馬鹿しい場所へ自費で写真を撮りに出向いている。恐ろしく広大な中国の中の、あっちのバカ、こっちのBと、まぁその勢力たるや大したものだ。
いやいや、ぼくは誉めてはいない。呆れているのだ、からね。
サカイ君は、ぼくと同じく有色人種〜黒人音楽が大好きで、これまで誰にも撮影できない秘密のスポットへ踏み込むことに成功した素晴らしいカメラマンだった。何より、ナイジェリアの
フェラ・クティのデス・マスクまで撮影した超クレイジーな男であり、同じく(旧)ザイールのポップ・ミュージックの空恐ろしい薬物と暴力の現場にも、彼は「ふつー」に入り込むことができた凄腕だった。彼のカメラ技術は、このときに、徹底して鍛えられ、今のバカ・ショットにいたる。面白いと思った現場と、根性を決めて付き合う…そんなこと、ちょちょいのチンで済ませばいいじゃん…というわけにいかないのがサカイ君のような「どうかしている者」たちのスピリットなのである。
『中国B級スポットおもしろ大全』にはほんの少ししか出てこないが、現代中国の最大の「恥部」である各地の売春タウンにも、おそらく彼が一番乗りで取材をかけてきた。そしてその数年にわたる凄い蓄積を、彼は未だに発表していないのも凄い。ぼくはカメラマンではないが、この人の撮影する「チマタのなにげなさ」は、決して一般のプロには撮影できないものであることは、同じ世界の貧民街音楽(すなわちポップ・ミュージックの原点)を心の母として愛する人間として、よくわかる。だからこそ彼は、今のチンケな欧米の商業音楽から離れ、ナマな中国へと向かった。生死を賭けてもいいほどの「くだらない」「人間の」「なまなましさ」を追いかける…サカイ君は、やっぱりどうかしている。
新宿南口の、いつものルノアールで会って、ぼくが沖縄本島、彼が石垣島、いつもことあればオレたち沖縄にいるのに、なかなか会えないよな、なんて話をした。
amazon-『中国B級スポットおもしろ大全』(写真,文=サカイトオル)