「かたる」
五月三一日(月)
ゴールデンウィークに川崎へ公演にやって来た知名定男さんと立ち話をしていたら、愛弟子の鳩間可奈子さんのことになった。鳩間さんはぼくも十代の頃から知っている素晴らしいシンガーで、最近、ますますいい。明るくて、歌うことが本当に楽しそうだ(その気持ちがこちらに伝わってくるのがぼくは大好き)。
でも定男師が言うには、
「可奈子はまだ歌で語ることができない」と。
大先生ならではの温かい評価だ。でも「語る」ってどういうことなのか。「安里屋ユンタ」なら無数の人たちが知り歌っているけど、はるか江戸期の人頭税の過酷を遠くにイメージしながら安里屋の美女、すなわちクヤマの人生を<陽気なリズム>で料理する…その難しさ…そんなことなのだろうか。歌の本質的な部分である。
さて5月30日。日比谷野外音楽堂。25年目の、「Japan Blues & Soul Carnival 2010」である。来るはずがないと言われていたソウル・ミュージックの大シンガー、
ソロモン・バークがこの日、ステージに立った(正確にはステージに設えられた巨大な椅子に座った)。
ゴールドに縁取られた、背もたれが軽く2メートルはあろうかという深紅の椅子。他のどの舞台装置よりも大きい。椅子へ暗がりからバーク師は車椅子で近付いてくる。その彼を黒のタイトなミニをはいた美女数人が取り囲む。そして彼女たちが巨大椅子から離れるや、椅子にも負けないくらいのどでかいキング・ソロモン師が、ブルーwithラメ&ラメ!のスーツに身を包みながらマイクを握っていた…という次第だ。冷静に考えれば(もともと太り気味だったけど)体が悪いのかなと思うのだが、このド派手な設定が良く似合ってしまうバークさんだし、なにより声の迫力が違う。光輝く衣装とシンクロするように、一つひとつの言葉が真正面からフトコロへ突き刺さってくる。
「何も不可能なことはないのだ(Nothing's Impossible)」
いい文句ですね〜。
鍛えぬかれた自信みなぎる手振り、身振り、そしてボーカルの起承転結。そこから表現されるのは人の弱さであり、男の強がりであり、這い上がるためのパワーであり…彼は歌いながら、まさしくヒトであることを語っていた。これぞSoul Music。ありがとうございました(礼)。
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