3月28日 しょうちゃんの蛇に三線/藤田正
「マニー・オケンド」
 
三月二八日(土) 

 
Martin Cohen/LP Music
 マニー・オケンドが亡くなったことを、東京にいる岡本郁生が報せてくれた。ぼくは今、コザにいる。
 岡本は関東のラジオ局を中心に仕事をする放送屋さんだけど、スパニッシュ・カリビアン(サルサなど)については、今や日本一のライターとなった。かつての雑誌時代のぼくは彼の担当編集者で、それ以来の長い付き合い。「マニー・オケンド」は、黄金時代のサルサを実体験した者たちには忘れることのできない脇役の一人であって、当然、岡本もぼくも、この人の演奏を愛した。
 資料によるとマニー・オケンドは一九三一年の元旦に生まれて、この二五日に亡くなったとある。七八歳だった。みんなトシを取って、そして大気の外へと旅立つんだよね。
 マニーの音楽家としての旅は、ニューヨークにSalsaなるジャンルが生じるずっと前から始まっている。プピ・カンポ、ティト・プエンテティト・ロドリゲスほかの人気バンド〜オーケストラのパーカッショニストを経て、「ラテン音楽サルサ期」の幕開けを飾るエディ・パルミエリのバンドに加わる。その名も「ラ・ペルフェクタ」(完璧、の意)である。
 ラ・ペルフェクタは、ホーン・セクションがトロンボーンだけの特殊なダンス・バンドで、加えて、今に続く革命的なリズム・アンサンブルを生み出したことでも知られている。ぼくはサルサ、すなわち「キューバを父に、プエルトリコを母に持つ、雪降る大都会の熱帯音楽」の象徴の一人であるエディ・パルミエリだけに、この「革命的栄誉」が冠されるものと思い込んでいたが、それは間違いであり、パルミエリの成功の陰にマニーのようなたくさんの「名脇役」がいるのが実際だったのである。一つのジャンル、味わいが好きになればなるほど、主役の脇を固める人たちの「声」が聞こえてくるものだけど、マニーのティンバーレスがまさにそれだった。
 ぼくも岡本も、マニーや、ジェリー・ゴンサーレス(コンガ)、ジェリーの弟であるアンディ(ベース)…つまりパルミエリ・ミュージックの土台をなした三人が結成したコンフント・リーブレ(自由のバンド、の意)を何度かニューヨークの下町で見て、アフロ・リズムが「雪降る街」において、どれほどの洗練をなしたのか、その究極を知ったような気分に陥ったのだった。 
 初めてのニューヨークで、ぼくは彼らと出会った。それから三十年以上も経った。
 そして今朝、ぼくはパルミエリとマンボ王であるティト・プエンテの「たった一度の競演アルバム」のCD解説を書こうとしていた。プエンテはもう故人。プエンテもパルミエリも、マニーが仕えたNYラテンの大親分。ふと見ると、そばの携帯に岡本郁生からのメッセージが入っていた、というわけなのだ。
(上記、プエンテ&パルミエリの競演アルバム『マスターピース』は、ユニバーサル・ミュージックから発売される)

( 2009/03/28 )

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