「マスク」
十二月二十七(木)
冬季のボーカル・レッスンにはマスクが最適であることを発見したのである。昔の日本だったら街角でオヤジが一節うなっていたり、ハナタレのガキどもが公園でワラベ唄を輪になってうたっていたりしたものだが、今はそういう風景も薄くなったように思う。女学生…こんな表現があてはまる少女たちも激減した…が、坂の向こうから彼女たちが連れ立って歌をうたって歩いてくるなんてシーンを見かけると、ちょっと感動してしまうほどの日本の都会なのだった。
だから、いっぱしの大人(とくに男系)が街で声を出しているとなれば、まず間違いなく奇人あつかいなのだ。それは自分がそのオヤジをみかけたときにどう反応するかを想像すればわかる。でも、私のばあい、ボーカルの練習を日夜しなくてはならないわけだから、さーて路上ではどーするか? なのだった。そこにマスク、登場! インフルエンザだの花粉だの、あるいは、ばい煙だのと街はばっちくて、だからマスクをかけている人が多いわけだけど、マスクは路上でオヤジが(かくれて)発声練習するのにも、好都合なのだ。特に、電車を待つときのプラットホームはベストである。だいたいがうるさい場所だから、特に新宿駅なんぞはバリバリに歌っても大丈夫。まぁ、あのあたりはホンモノのヘンなおじさんも多いから、なおさらいいでしょう。マスク、使いましょう。ただ、振り付けの練習は避けたほうがいい。マスクしながら、歌って、踊ってのオヤジは、ちょっと想像を絶する光景だ。
「せんゆう」
十二月二十八(金)
ししゃごにゅうすると九十になるしげかずさんと、いっしょに「戦友」をうたった。私らの覚えてる歌詞とちがうようだね、と隣りのあさこさんにも言われて、いやこれは沖縄の嘉手苅林昌さんという人が少し作り変えたものだからと応えて、オリジナルの歌詞と比較したら、やっぱり嘉手苅林昌さんのバージョンは、戦争で大変に苦労した人だけに文字通り実感が込められた作品に仕上がっていたのだった。歌の最後に「なむあみだぶつ」と一言入れるのも、素晴らしい。
しげかずさんはとてもうたなんかうたわないようなムードの昔の男だけど、三線をそばにもってきて、このメロディは覚えてるか? とたずねたら、うたってくれた。