「ライバル」
十一月十六日(金)
コザの照屋林助三線店に電話をかけた。そしたら秀子さんが、毎日読んでますからね、とぼくをわらうのだった。「笑」うではなく、「あざ笑」っているのだ。なんだか挑戦的なオーラも携帯電話のミニ・スピーカーから伝わってきて、会話が進めば、
「あなたには負けませんからね」ときた。秀子さんも三線をやっているのだ。そして、あなたがそんなに三線だ歌だと言うんなら、コザの店に来て「ここでやったんさいな(なぜか関東ことば)」と。
どうせ天上のネズミも聞いて逃げ出すような程度だとか何とか…。
わたしんちで生まれた三線の「りん」が、あんたんちにもらわれていって可哀相だとか何とか…。そこでしょうちゃん、怒り心頭に発し、
「ほう、ワシに勝つと仰せか。かかッッ不敵(ここで見得を切る)。おそれを知らぬ女御ど〜の〜(ここは浄瑠璃)」
と、このような無駄話を続けたのだが、秀子さんはけっきょくのところ、私の三線上達報告書を読みながら今日もまた、トレーニングに励んでいるのだった。ライバル登場。
たたッ、死にがんばるー。
「大島鳩間」
十一月十七日(土)
昨晩は仲間たちと
大島保克ウィズ
鳩間可奈子のライブにでかけた。渋谷のDUOは満杯で、大島さんはいい観客をつかんでいるなと思った。集まった人たちが「歌」を聴きにきている「おとな」ばかりだったから。大島さんは地味なシンガーで地味なまんま二十年ほど歌ってきた。そのテンポも歩く姿勢も崩さぬ生き方がしだいに確実なファンを増やしてきた。大島さんは「おとな」の心に根を張ることのできる歌をうたえる人なのだ。
大島さんは壇上から沖縄の音楽では十年で世代が入れ替わるといった話をした。
登川誠仁さんから
知名定男さん
照屋林賢さん…と年代を経て、ぼく
大島保克がいる、その次が
鳩間可奈子の世代だろう、と。大島さんは若いときに「イラヨイ月夜浜」で知られるようになった。そのころの歌声をときおり思い起こしながら昨晩の彼に耳を傾けていたのだが、体はスキニーなままの彼のボーカルには今、てきどなふくらみがついて、これがよかった。声が流れて、でも流れたまんまじゃなくて、地面にふわっと(ゆっくりと)声の残像が落ちてゆくそのサマがよかった。彼はちょっと前に『
大島保克 with ジェフリ・キーザー』という意欲作をニューヨークで録音したけど、なるほど、ちゃんと、五年、十年と、いい歳をとってきている
大島保克だった。
彼のこの「島唄三昧」ライブにゲストとして迎えられた
鳩間可奈子さんは、彼女が鳩間島で
知名定男さんによって「発見」されて話題になった少女のころから知っている。素晴らしい歌唱力の女性なのだ。しかも明るく、すがすがしい。
知名定男さんが弟子として決して手放なそうとしないのも当然の逸材だ。昨晩も、同じ八重山の後輩として大島さんが彼女を温かく見守っていることがよくわかるステージだった。男女の掛け合いの多い八重山系伝承歌が中心のこの夜、大島さんはやっぱり可奈子さんを傍に呼びたかったんだろうな。青学を卒業しての彼女は、少し前にお母さん(この方も抜群に上手い)と一緒に出た琉フェスもよかったけど、今はもっともっとよくなっている。そして「明るく、すがすがしい」がまるで消えていない。ラストで大島さんと一緒にデュエットした八重山の名歌「トゥバーラーマ」もよかったな〜。歌うときの、ほんとうに嬉しそうな、生気あふれるあの顔。
鳩間可奈子は美しい。このまま、このままで、あと十年、もう十五年…歌が島にずっと生きつづけることをぼくらに見せてほしいのだ。
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『島めぐり〜Island Journey/大島 保克』(鳩間可奈子参加)
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『大島 保克 with ジェフリー・キーザー』