「伊礼さん」
九月十五日(土)
大阪・梅田の地下街に沖縄料理屋がある。そこは伊礼正哲(いれい・まさてつ)さんが経営している店だ。
仕事が終わって仲間と新幹線に乗る前にどこで一杯やろうか、ということになって、友人の上田康平さんがさっさと伊礼さんの店へ行くことに決めた。店の姿が遠くから見えたあたりから三線の音が耳に入ってくる。沖縄が好きには、たまらない場面なんだよね、これって。なぜだかわからないけどね。
店へ入ると、二十人ほどだろうか伊礼さんのお弟子さんたちが歌三線のお稽古をやっていて、この傍で仕事帰りのビールを飲めるのかと思うとまた気持ちよ〜くなるのだった。、みんなアマチュアでしょ、でもそんなことなーんにも関係ない。歌三線があって、地下街にその音がこぼれ出て、みんなそれって普通のことじゃない? と思っている大阪が素晴らしい。悪いけど、東京人のメンタリティにこんなのあるのかな。大阪は沖縄と直結している。
伊礼さんは我が登川誠仁さんの直系のお弟子さんで、ぼくも何度かお話したことがある。ということは決して他人じゃないってことだ(と勝手に決めつける)。お久しぶりですねーなんて言葉を交わしているうちに、伊礼さんがぼくの席の傍に置いてある三線ケースを見つけて、これは? と訊ねた。照屋林助さんの息子が作ったんです。ほうそうなの、見せてもらっていい?
そして伊礼さん、三線ケースに向かって、正座してウートートゥし出した。礼を守って、手を合わせる。そして「りん」を取り出し、ぐっと睨んで、ケースに戻す。そしてまた一礼。三線はモノじゃないのだ。
「いとおしい」
九月十六日(日)
電車の中で、あなた大事そうにケースを抱えてるけど夢はなーに? と訊かれたから、この中の三線で日本武道館をいっぱいにすることです、とこたえたら、そのおばさんは、とてもいとおしそうな目でぼくを見た。何かぼくは、間違ったことでも言ったのだろうか。
(意味の選択)いとおしい=一、たまんなくかわゆい/二、つらいな〜って気持ち/三、かわいそーにねー
九月十四日にご出演のおじさん、そして本日のおばさんは、はたしてこの三つの意味の内、どれだったのか。