私はこう考える:ダンスホール・レゲエのゲイ・バッシング
 
Beats21
*Beats21に載った私(藤田正)の記事「懲りないレゲエ・シンガーのゲイ差別:シズラ、ブジュ・バントンらの歌詞を巡って」について、『ボーン・フィ・デッド』の訳や『パトワ単語帖』などの著作で知られる森本幸代さんに寄稿してもらった。レゲエ・ミュージックだけではなくジャマイカのジェンダーの問題にも造詣が深い森本さんが、ダンスホールの歌詞、そしてその背景をどうとらえているのだろうか。(藤田正)
 
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 藤田さん、こんにちは。
 
 先日藤田さんが書かれていた、ダンスホールのゲイ・バッシングに関する記事の感想ですが、これは本当に微妙な問題です。まず海外の人権団体が、何を求めているのか。これがわたしにはまだよくわかりません。そのアーティストに(1)「ホモフォビアな歌を歌うな」と言っているのか、(2)「ゲイを殺せ!と歌うのはやめろ」と言っているのか、(3)「ジャマイカのホモフォビア自体を非難している」のか。これは同じようでまったく別の問題です。(1)(2)の場合は、それを「海外で」歌うなと言っているのか、「ジャマイカでも」歌うなと言っているのか。これにも大きな違いがあります。(3)の場合は同性愛者の人権にとどまらず、もっと複雑な問題をはらんでいます。
 
 ジャマイカは、その音楽を聞いてもわかるように、同性愛を嫌う人の多い国です。今は理解を示す人も増えて、いろいろ変わってきていますが(これは、これだけで原稿が一本書ける話題です)、やはり同性愛を「表向きだけでも」嫌う人が多いことは確かです。なぜそうなのかは推測するしかありません。ただそれがわからない内は、少なくともわたしにはジャマイカのホモフォビアを非難する資格がないと思っています。「何も悪いことをしてないのに、その人を嫌うのはよくない」。それが正論だし、そう言うのは簡単ですが、なぜジャマイカ人は同性愛者を嫌うのかという背景を理解せずにそのまま正論をぶつけても、それは「その人にとっての」正論であって、ジャマイカ人の正論ではないのです。もっとジャマイカのことがわかれば、同じことを意見するのでも違ったものの言い方になって、お互い理解しやすくなるのではないでしょうか。もしかしたらジャマイカのホモフォビアは、別のところで軽減・解消できるものなのかもしれないという気もしています。ただ今は、そういう理解しようという姿勢がほとんど示されずに、ジャマイカのホモフォビアを「人権に対する理解が遅れている」の一言で済ます向きがあって、それには少し抵抗を覚えます。もちろん「わたしの」価値観では、「何も悪いことをしてないのに、その人を嫌うのはよくない」と思いますが、それはあくまで「わたしの」価値観であって、ジャマイカ人の価値観ではないのです。 
 
 あと外の人間が、内の何かに意見するとき、ある注意が必要です。たとえば力のある者が、ない者に言う場合。それはただの意見ではなくて、何らかの圧力が伴っています。言っている方はまったくそんなつもりがなくても、言われた方は社会的/政治的/経済的な立場が弱いので、「その意見を受け入れたとき」と「受け入れなかったとき」のソロバンをはじかざるをえない。圧力を感じて、反発することもあります。長く弱い立場を強いられている人は、外からの発信を圧力と感じてしまう歴史(背景)を持っているかもしれません。
 
 今世界では、価値観のグローバル・スタンダード化が進んでいます。でもその「スタンダード」は、往々にして「経済大国のスタンダード」であり、たいてい経済大国が発信して広めているものです。わたしは経済大国の人間なので、そのスタンダードを理解・共有できる背景があります。でも世界には、わたしとは違う背景を持って、まったく別のスタンダードを持つ人もいます。そしてそれは、人権に関しても同じです。もちろん人権は大切なもの。誰も人が生きる権利を否定することはできません。ただそれが人の生死に関わる場合を除いて、なぜその人たちが特定のものや人を嫌うのかという背景を理解せずに、その価値観を否定することはできないと思うのです。
 
 価値観にはすべて、それに至る過程があります。まずその理解がないと話ははじまりません。どんなに普遍的で正しく思えることでも、「もしかしたらじぶんのスタンダードは、その人のスタンダードとは違うかもしれない」と想像する根本的な配慮が、今は全般的に欠けているのではないでしょうか。
 
 だからもし海外の人権団体が、ダンスホール・アーティストのバッシングで(3)「ジャマイカのホモフォビア自体を非難している」のであれば、もう少しジャマイカを知る努力をした跡が見えたほうがいいと思います。今はあまりにも「経済大国」の「ジャマイカに理解のない人」が、人権という正論だけを振りかざして圧力をかけているような印象を受けて、少し抵抗を感じてしまうというのが正直なところです。もちろんわたしも海外の人権団体と同じ価値観を持っているという矛盾はあるのですが。
 
もし彼らの訴えているものが(1)「ホモフォビアな歌を歌うな」、(2)「ゲイを殺せ!と歌うのはやめろ」と言っているのであれば、それはまた違う話です。
 
 なんだか長い文になってすいません。
 思わず熱く語ってしまいました。
 
 わたしの親友がゲイで、せっかくレゲエに興味を持ち始めたのに、「いっしょにジャマイカ行こう!」と言えないのはとてもさびしいです。こんなにも長く引かれている国なのに、「何かあったとき、彼を守れない…… 」と思ってしまうじぶんの偏見。
 もしかしたら取越し苦労なのかもしれないのに、そうは思えないじぶんに、実は一番悲しいのです。
11月12日 森本幸代
 
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( 2007/11/13 )

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