妻が語るレゲエ・キングの実像『ボブ・マーリーとともに』
 今年(2005年)はボブ・マーリーの生誕60周年にあたる。ザ・ウェイラーズの過去の作品も改めて出しなおされるなど、色々な企画が進んでいる。この書籍もその中の一つで、ご存じボブ・マーリーの妻だったリタの著作である。
 クレジットはヘッティ・ジョーンズとの共著となっているが、これはリタが語ったものをヘッティが書きまとめた、ということなのだろう。敬虔なクリスチャンであり、真面目な少女だったリタが、どのようにボブ・マーリー(若い頃は「ロビー」と周囲から呼ばれていたそうだ)と知り合い、そして結ばれたか……物語はキングストンのスラムからスタートする。
ボブ・マーリーの一生 その36年の軌跡を追う』(藤田正)などの伝記ものがすでに紹介しているように、60年代の彼ら彼女らは、たとえ人気者であってもそれはあくまでもジャマイカ国内の話であり、金銭面も含めた本当の意味の「スター」ではなかった。
 つまり、カネがない。住む家がない。さらに各家族の事情によって、アメリカへ渡ったり、また帰ってきたり。その間に、子どもができてしまったり。
 物語を読んでいると、ボブ・マーリーと仲間たちは、一つ間違えば「ただのローカル・ミュージシャン」で一生を終える可能性の方が高かったのではないか?と思うほどに、人生の高波にいつも溺れそうになっていた。リタにしても、伯母さんの積極的なバックアップがなかったら、きっと潰れていただろう。 
 そしてアイランドとの契約である。70年代の初頭から世界へ本格的に飛び出したザ・ウェイラーズの周囲は、それ以前とガラリと変わってしまう。妻であるリタは、夫であるボブ・マーリーが急速に離れて行く事実を、なすすべもなく呆然と見つめていたことが、この本でよくわかった。ボブ・マーリーが、リタの元に返ってきたのは、彼が亡くなってからである。
 奥さんとして、リタは相当に耐え抜いたのだろうなー、ということがしみじみと分かる本である。それは、アフリカはガボン共和国の王女も含めて、いたるところにいるボブの女たち(そして、その子どもたち)の記述を読むだけでも明らかである。
 ある人たちには「神」とまで言われたボブ・マーリーだが、はたして実像はどうだったのか。妻の目、女性からの目を通して、この本をきっかけに見つめ直すのもいい機会かも知れない。(河出書房新社、2100円)


Amazon.co.jp-リタ・マーリー、ヘッティ・ジョーンズ著『ボブ・マーリーとともに』

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『ボブ・マーリーの一生:その36年の軌跡を追う』藤田正著
 

( 2005/04/17 )

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