新しいレベル・ミュージック---OKIのアイヌ・ポップ
Beats21
 アイヌの伝承音楽をベースに新しいポップ・ミュージックを作っているOKIが、東京公演を行なった(2002年7月9日)。 
 共演に、アイヌ文化を伝承するシンガー、安東ウメ子
 満杯のライブ・ハウスは、OKIと安東に対する「未知」への関心が東京でも少しづつ高まってきていることをうかがわせた。
 会場となったのは吉祥寺のスター・パインズ・カフェ。客席には、OKIを新作のレコーディングに招いた角松敏生や、三味線(宮園節)の桃山晴衣、パーカッショニストの土取利行が顔を見せ、OKIの音楽が幅広く注目されていることがわかった。
 バンドは洋楽器といえるものはギターだけで、あとは各種打楽器を組み合わせた「ドラム・セット」とOKIのトンコリが演奏陣。OKIの妻であるレクポを中心とした男女のコーラスが舞台上手(かみて)に立つ、というセッティングである。
 男性コーラスを担当していたフトシは、後半で民族衣裳に着替えアイヌの踊りも披露した(写真)。
Beats21
 数曲うたうだけかと思われた安東ウメ子(写真)は、コンサートの前半からほとんどステージに出ずっぱりで、バンドのリード・ボーカル、あるいは精神的支柱のような存在だった。
 安東は、彼女のアルバム『イフンケ』に収録された子守唄、古謡を中心に歌ったが、その静かな祈りのような声は、OKIが奏でるトンコリとぴったりとマッチして見事な光を放っていた。彼女が伝承譚をもとにして作ったという、イナゴの大群をテーマとした「バッタキ」も、この人の奥深さを知らしめる1曲だったが、こういった歌や踊りが、タバコで煙る東京のライブ・ハウスではなく、北海道の大自然の中であったならどれほど感動的か…と思った人も少なくないはずだ。
 OKIがトンコリはリズム楽器だと言うように、この日の彼を中心とした演奏は、覚えやすいリズム・パターンを何度も演奏し少しづつ崩し盛り上げていくという、西アフリカのグリオ(吟遊詩人)のそれにも似たものだった。実際、レゲエ〜ダブや、第3世界の音楽に影響を受けているOKIだけに、アイヌ音楽を「研究」と「保存」だけに終わらせるものかという強い気持ちが、こういったアフロ・リズム的な処理・アレンジにつながっているのかもしれない。
Beats21
 また長い歴史の中で培われたアイヌ伝統歌謡を、現代に息づくものとして変化させようとしているOKIの音楽が、スローで瞑想的な歌が多いのにもかかわらず、聞き手を昂揚させるようなエネルギーを持っているのも、こういった彼の音楽性によるところが大きいのだろう。

 上手に複数の女たちがいて、珍しい民族楽器(トンコリやムックリ)が基調をなすステージ。「神」「祭」といった言葉と民族衣裳。中央には、ネイティブ・アイヌの安東ウメ子が立つ。
 その濃厚な2時間半のステージは、ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズやカウント・オジー、サン・ラー、アレスティッド・ディベロプメントといった優れた先人やレベル・ミュージックのステージを彷彿させるものだった。
(文・藤田正)
 
 
  

( 2002/07/10 )

第4回「コザ・てるりん祭」を終えて 文・藤田正
音楽評論家・中村とうよう氏の投身自殺に寄せて:
博多でゴリゴリ、圧倒的なサンタナ・ナイト
「第3回 コザ・てるりん祭」 photo by 森田寛
世界から東博へ、役者が勢ぞろい。「写楽」展がはじまる
藤岡靖洋 著『コルトレーン ジャズの殉教者』を読む
東京セレナーデ Live at 赤坂GRAFFITI
祝・満員御礼:10.25「ディアマンテス結成20周年記念」
Introducing...エリック福崎を紹介する
お報せ:「ディアマンテス結成20周年記念ライブ」は定員に達しました
書評:長部日出雄著『「君が代」肯定論〜世界に誇れる日本美ベストテン』
書評:西原理恵子、月乃光司著『西原理恵子×月乃光司のおサケについてのまじめな話』
誕生釈迦仏がセイ・ハロー:「東大寺大仏 天平の至宝」展、始まる
イサム・ノグチの母を描いた力作『レオニー』、11月に公開
アルコール依存症の実状を正面から描いた『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』
ジャズ界のトップたちを率いて:大西順子『Baroque』Live
映画『瞳の奥の秘密』:現代アルゼンチンでいまも燃える「汚い戦争」の怨念
十代のジョン・レノンを描く:『ノーウェアボーイ』、11月5日から公開
きちじょうじのなつやすみ:河村要助の世界<その2>
上々颱風LIVE「デビュー20周年記念!スペシャル」を観て
オキ(OKI)
OKIの“アイヌ・ダブ・ミュージック“が完成(秀作!)
注目のアイヌ・ミュージシャン、オキ
アイヌ音楽の伝承者、安東ウメ子さん亡くなる
表紙へ戻る