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(VIRGIN TOCT24601) |
宇多田ヒカルは、アルバムの人かシングルの人か、どちらかと問われれば、シングルの人である。ファースト・アルバム『First Love』もそうだった。
確かにデビュー盤は1998年12月にデビューした彼女が、3カ月でアルバムを発売しているから、文字どおり「アルバム」という全体を一つの作品と捉える時間的な余裕があったかは疑問であるが、とにもかくにも、全体像よりも「First Love」など、シングル曲が他を乗り越え競り上がって聞こえる仕上がりになっていたことは間違いない。
待ち望まれていたセカンド『DISTANCE』も、傾向としては同じだった。「For You」「Addicted To You」「Can You Keep A Secret?」といったシングル曲が、アルバムの中で見事に「起立」している。特に、すでにテレビ、ラジオで無数にエア・プレイされている「Can You Keep A Secret?」の「震えるボーカル」には、改めてアルバムで聞いても痺れるものがある。
そういう意味で『DISTANCE』は、シングル曲を足がかりに飛び石を渡り、「踊る」アルバムと言えるだろう。
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(photo:Toshiba EMI) |
宇多田ヒカルは、デビュー当初、「リズム&ブルースの影響下に…」といった指摘をよく受けていた。色合いは違うものの、
MISIAなどと同じである。
しかし、もはや宇多田を黒人系の…と、あえて言う人はいないはずである。それほど彼女のスタイルは、たった2年ほどで日本に浸透し、一般化したのだった。
このアルバムにはブラック系の大物、
ジャム&ルイスJimmy Jam & Terry Lewisや、新進の
ロドニー・ジャーキンスRodney Jerkinsにプロデュースを依頼した「タイム・リミット」ほかの歌があるが、中間色というか、ごく一般の日本人リスナーが素直に受け止められる程度の「黒さ」に抑えた制作方針が取られている。10曲目の「Parody」はレゲエだが、これにしても
スティングの「Englishman In New York」のアプローチだ。
逆説的に言えば、このようにサウンドが中庸であるからこそ、ここぞと決めた時(すなわちシングル)の宇多田のメロディと詞は、輝く。
独特のリズム・フロウ、言葉を崩して歌う唱法…これこそがブラックから学んだこと…から浮き上がる言葉の艶は、他の追従を許さない。「For You」に出てくる名文句「君にも同じ孤独をあげたい」が、そのいい例だろう。
こういうスタンスがある限り、彼女の独走状態は、しばらく続く。
UTADA HIKARU - DISTANCE
releasing date:March,28,01
1. Wait & See〜リスク〜
2. Can You Keep A Secret?
3. DISTANCE
4. サングラス
5. ドラマ
6. Eternally
7. Addicted To You [UP-IN-HEAVEN MIX]
8. For You
9. 蹴っ飛ばせ!
10. Parody
11. タイム・リミット
12. 言葉にならない気持ち
13. HAYATOCHI-REMIX bonus track
All songs written by Utada Hikaru,
except for tr.5 and 11 by Utada Hikaru and Kubo Takuro
Prod.by Jimmy Jam & Terry Lewis: tr.1,7
Prod.by Miyake Akira and Utada Sking Teruzane:
tr.2,3,4,5,6,8,9,10 and 12
Prod.by Rodney Jerkins: tr.11
Prod.by Utada Hikaru: tr.13