タジ・マハールは、この10年、ハワイのカウアイ島に住んでいる。
ブルース〜フォーク・ミュージシャンとして1960年代に脚光を浴び、
レゲエやカリプソほか、当時はあまり注目されていなかった音楽とも積極的にブレンドを計ってきたタジの現在は、ハワイ音楽と切っても切れない関係にあるようだ。
沖縄もそうだが、南洋の歌の島を、単なる隠れ家と考えている都会出身のミュージシャン(らしき人々)は多い。浜辺で焚き火を囲み、ギターを持って、マリワナを吸う。それで解放された気持ちになっている島の定住者気分の異邦人は
沖縄にもたくさん存在する。
タジにとってのハワイは、ずいぶん異なるようだ。
独自のブルース観を持ってきたタジだけに、彼はハワイ音楽を、破壊されようとする現地文化の防波堤、あるいは再創造のためのカギのように考えているように思える。そこに、黒人として高い意識を持ってきた彼がハワイ音楽に惹かれる根っこがあるのではないだろうか
『ハナペペ・ドリームHanapepe Dream』には、我々がいかにも「ハワイアン」だとイメージできる曲は少ない。
タイトル・ソングとなったラストのインスト、「Moonlight Lady」「Livin' On Easy」などである。
しかし「ハナペペ・ドリーム」にしても、フレッド・ラントのスティール・ギターはロマンチックに奏ではしているものの、ケスター・スミスのドラム以下、メンバー全員の音のタッチはそれぞれの筋肉の盛り上がりが見えるような力を込めた演奏なのである。
つまり、どこもリラックスしていない。骨格のしっかりとしたタジの顔つきのように、ごつごつと、精気満ちる音楽が『ハナペペ・ドリーム』である。
この精気をハワイからもらったというのであれば、これはまさしくハワイアン・アルバムのはずである。
曲目は、タジらしい。ボブ・ディランの名作「All Along The Watchtower」、古いカリプソ「King Edward's Throne」、米黒人のフォークロア「Stagger Lee」と、ジャンルはまちまちだが、「大衆と民俗」「民俗と物語の成立」といった視点からすれば、黒人である彼がなぜこういった曲を(今回も)選んできたかが納得できる。
タジは2001年の5月に61歳になるが、その逞しさ、ほとばしるエネルギーは、このアルバムでも充分に聴き取ることができる。(2001年5月23日発売)