彼女の歌声を聞いていると、まず最初にローリン・ヒル、エリカ・バドゥといったシンガーの名前が浮かんでくる。この数年の間に台頭してきた女性ブラック・シンガーたちのことである。あるいはディアンジェロウという優れた男性シンガーのことを。
間違いなくブラックな声であるのに、ディスティニーズ・チャイルドやジャネット・ジャクソンのようにダンス・ソングを中心に置いていない。座って聞くことにより関心の高い音楽性。こういった音楽性の中に、アコースティック・ギターの生音を取り入れた時、インディア.アリーの姿が近づいてくる。
「私はビデオに出てくるような月並みな女じゃないのよ、私は私なの」とうたうヒット曲「ビデオ」にしても、アコースティック・レゲエのタッチで、ウィットが効いた歌詞がポイントだ。「ビデオ」の冒頭は、ボソッと「脛毛を剃ることだって、剃らない時だってあるわ。私の気持ちしだいだから」とうたうところから始まる。
何人ものダンサーを従えた大掛かりなショウではなく、学生街のカフェでふと見かけた「フォーク・シンガー」的な佇まいを持ち合わせるのがインディア.アリーのデビュー盤だと言えるだろう。そこにはトレイシー・チャップマン、ロバータ・フラック、ダニー・ハザウェイら彼女の先人たちのイメージもダブる。トラック8の「レディ・フォー・ラブ」などはフラック〜ハザウェイの道である。
戦前のブルースマンであるチャーリー・パットンやロバート・ジョンソンの名前まで歌(ナレーション)に持ち出してくるインディアである。マイルス・デイビスにカレン・カーペンター(カーペンターズ)の名前も出てくる。彼女は、こういった人たちがいたからこそ自分があるとCDの中で言っている。
そして大のヒーローがスティービー・ワンダー。彼にはボーナス・トラックで「ワンダフル」という歌を特別に贈っている。
現在25歳。嘘をつかずにうたうから、等身大の自分を聞いて欲しいという、ケレン味のない「アコースティックなソウル」が初々しいインディアである。