文・藤田正
1930年代のミシシッピ・ブルースに、不気味なエネルギーに満ちた歌がある。
次のような内容だ。
十字路に立って、(車に?)乗せてもらおうとしたのだけれど、不思議なことに、みんなが俺を通り過ぎてゆくんだ。十字路で合図を送ったのに、誰も俺を知らないようだ。
ヒッチハイカーの歌だろうか。
ちょっと違うようである。
これは、「クロスロード・ブルース」という古いブルースに出てくる歌詞の要約である。
アメリカ南部には、ある特定の十字路は、悪魔と秘密の取り引きをする場所だという黒人伝説がある。人は、飛び抜けた才能を得たいがために夜更けの十字路で悪魔と出会い、自分の命を悪魔に差し出す。
ミシシッピにはこのような言い伝えが今でも残り、「クロスロード・ブルース」も、実体験としての「魔の十字路」をテーマにしていると言われてきた。
つまりこの歌は、悪魔に命を捧げたあと、超人的な歌う能力を獲得した「生きるシカバネ」本人による描写だというのである。
「クロスロード・ブルース」を
ロバート・ジョンソンが録音したのは1936年のことだった。そしてその約30年後、
エリック・クラプトンが在籍したクリームの名演で、多くの世界のロック・ファンはこの男の存在を知ることになった。