ブラック・ミュージックの祭典 in キンシャサ:映画『ソウル・パワー』公開
ジェイムズ・ブラウン(アップリンク)
 
 アメリカこそ未開のジャングルじゃないか。
 懐かしいモハメド・アリの名文句である。ソウル。ブラック。アリの舌鋒も切れにキレまくり、そして「第三世界」という言葉も活き活きと輝いていたあの時代。それが『ソウル・パワー』の舞台である。
 歴史的な対戦といわれた、モハメド・アリ対ジョージ・フォアマンの世界ヘビー級タイトルマッチが行なわれたのが、1974年、旧ザイール(現コンゴ)の首都・キンシャサだった。この試合をきっかけとして開かれたフェスティバルが「ザイール'74」。『ソウル・パワー』はこのときの膨大な記録フィルムをまとめたものである。      
 出演者がすごい。アメリカからはジェイムズ・ブラウンB・B・キング、ザ・スピナーズ、セリア・クルース&ザ・ファニア・オールスターズたちがやってきた。ザイールからはフランコ&T.P.O.K.ジャズ、タブー・レイという2大巨頭が出て、南アフリカ出身(亡命の身)のヒュー・マセケラとミリアム・マケバも舞台に立った。残念ながらヒュー・マセケラは映画にはちょっとしか出てこないが、カメルーンのマヌ・ディバンゴが路上で子どもたちと「セッション」したりと、見逃せない場面がたくさんある(ジェイムズ・ブラウンが、舞台終了後の楽屋を撮影させたというのも、かなりレア!)。
 125時間もあったというフィルムを93分にまとめたのだから、「おおっ」と思う間もなく次のアーティストやトークに移っていくけれども、編集もよし、音と映像も当時最新のシネマ・マルチトラック・レコーダーを持ち込んでいるので見ごたえは良好である。
 単に音楽フェスティバルの記録というだけでなく、60年代末の「ウッドストック」や、その後の歴史的音楽イベントと比べてみると、「ザイール'74」が大西洋をはさんだ両大陸の黒人系ポップ・ミュージックに相当な影響を及ぼしたことが見て取れる。例えば、この時のファニア・オールスターズのライブをきっかけにして、ザイール音楽における新興勢力の長となるパパ・ウェンバはビバ・ラ・ムジカを名乗ったわけであり、また小さなことだが、てのひらによる挨拶の仕方を、アフリカ側(ザイールの女の子)とアメリカ側(ジョニー・パチェーコ of ファニア・オールスターズ)とで教えあうシーンは、なんとも感動的だ。この「文化交換」によって、今の日本におけるシェイク・ハンドの仕方があるのだ。フィルムをまとめたジェフリー・レヴィ・ヒント(監督・製作)も、そのあたりを理解しているからこそ、この場面を映画に差し込んだのだろう。
 34年間もお蔵入りしていた貴重な映像。セリア・クルースらのライブ、あるいはボクシングのタイトルマッチは『モハメド・アリ かけがえのない日々』(レオン・ギャスト監督、アカデミー賞ドキュメンタリー部門受賞)としてDVDにもなっているが、この『ソウル・パワー』も見逃せない。
(文・藤田正)
 
アメリカ/93分/2008年/カラー/ドルビーSRD/英語、フランス語 他
監督・製作:ジェフリー・レヴィ=ヒント
出演:ジェイムズ・ブラウン、ビル・ウィザース、B・B・キング、ザ・スピナーズ、セリア・クルースファニア・オールスターズモハメド・アリ、ドン・キング、スチュワート・レヴィン 他
2010年6月12日(土)より、シネセゾン渋谷、吉祥寺バウスシアター、新宿K'sシネマ、川崎チネチッタほか全国順次公開。
 
DVD『モハメド・アリ かけがえのない日々』
 
amazon-輸入DVD『Soul Power』
amazon-書籍『ザ・ファイト』(ノーマン・メイラー著/アリ対フォアマン戦をテーマとした名著)

( 2010/04/23 )

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