94年にこのアーティスト名でデビューしてから2度のグラミー賞を獲得しているのがケブ・モ(本名ケビン・ムーア)である。
ブルースの時代を遠く離れた頃に、慌てず騒がず、アルバムを発表し続けてきた。
通算6枚目となる『キープ・イット・シンプル』は、「
ブルースマン」的なイメージに自らが従っていた以前と違い、
ブルースを基調としながらもスタイルにこだわることのない自由な立場を楽しんでいるかのような作品だ。
心をズタズタに引き裂かれた嘆きのカントリー・
ブルースか? と思ったものの、よくよく聴くと自分の妻が一度はパリへ行ってみたいと言う、その願いを叶えようとするのが1曲目の「フランス」だった。ごく普通の亭主の優しさが光る、「今時の
ブルース」的なテーマがこの歌だった。
肩の力が抜けた、その軽いジョークが気持ちいい。
君は、わざわざ足を剃る必要などない。ドレスを変える必要もない。君の好きなようにやって、そのままの君が好きなんだから。
そう歌う、4曲目の「シェイブ・ユア・レッグ」などにしても、そうである。彼のマンドリンとスモール・コンボのリラックスした演奏も効果的なこの歌は、男らしさとセックスが基本にあった
ブルースからケブ・モはスルリと抜け出し、現代の男と女の関係をうたってみせる。かようアルバムには、驚くような言説はないものの、なるほどそうだなーと思わせる、ゆったりとした大人の含蓄が感じられる歌が並んでいる。
8曲目は、B・B・キングに捧げられた「ライリー・B・キング」である。現代
ブルースの頂点に位置するキングの実名をタイトルにしたこの曲にしても、仲間のロバート・クレイやロベン・フォードと一緒に、ポーチでグラスを傾けながらギター弾き、尊敬する先輩を歌っている、というムードがいい。
静かな夜に、ゆっくりと味わいたいアルバムである。
Amazon.co.jp-『キープ・イット・シンプル』