レコード・ジャングル 中村政利
「テキサス人はテキサスがアメリカよりも広いと思っている」というジョークがある。テキサス人を象徴する今の大統領の無知と鈍感と傲慢を思い起こせば、そんなジョークもあながち的をはずれたものではない気がする。だが、現代の情報社会とグローバルな価値観から一歩遅れた地域だからこそ、そこには原風景としてのアメリカの美意識が強く残っており、多くのアメリカ人にとって郷愁の沸く土地なのだ。
それだけではない、テキサスは19世紀初頭からフロンティアの最前線として白人がメキシコ領内に侵攻し、ついに1845年の米墨戦争でメキシコから奪い取った土地だ。テキサス州内には今も色濃くメキシコの文化が残るどころか発展し、その地に住むメキシコ人たちは自分たちをメキシコ北部に住む「ノルテーニョ(北部人)」と呼ぶくらいなのだ。リオ・グランデ川を越えたメキシコからの不法移民はひきもきらないし、多くのノルテーニョたちは両国にまたがって親戚、縁者を持っている。
白人がメキシコ領に侵攻したのは黒人奴隷を酷使する綿花栽培の畑を求めてであった。連れてこられた多数の黒人たちも乾燥したテキサスの地で独自の文化を発達させていく。その後、この地で石油が発見され、衰退する綿花産業に代わって、かれらの多くが石油産業の労働者として都市生活者になるにしたがってさまざまな都市黒人音楽もこの地に発展することとなった。
「ローン・スター・カントリー(ひとつ星の国)」と自らを誇るこの大きな州にはこうやって、白人、メキシコ人、黒人の文化が散在し、混合し、あるいは葛藤しあって、独特の果実を実らせているのだ。
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