ボブ・ディランは、4年ぶりのアルバムとなる『ラブ・アンド・セフト Love And Theft』(ソニー/写真)である(2001年9月12日)。
アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞を受賞したのち、2001年はディランにとって60歳を迎える年であり、同時にデビュー40周年という節目である。そんな彼の新作は、ブルース〜ロックンロールの故郷ともいうべきミシシッピ・サウンドを大々的にフィーチャーした快作となった。
初期の名作「追憶のハイウェイ61 Highway 61 Rrevisited」を持ち出すまでもなく、ディランはブルースや白人の俗謡など、アメリカの大衆歌謡に深い敬意を払うシンガーとして知られてきた。
新作『ラブ・アンド・セフト』は、メンフィスやミシシッピ・デルタ地帯に生まれた音楽文化を、いま一度、ディランが振り返ったとも言える作品で、初期のロックンロール、カントリーや、ハウリング・ウルフ、チャーリー・パットンなどかの地に生まれたブルースの大物たちの顔、そしてその風土が浮き上がる。
バックアップ・ミュージシャンは、ラリー・キャンベル(ギター)、チャーリー・セクストン(ギター)、オウジー・マイヤーズ(キーボード)ほか。
そのサウンドは太く、力強く適度に粗い。50年代、エルビスを輩出した黄金のサン・レコーディング・スタジオ(メンフィス)のカラーと同じように、ディランはかつてミシシッピ河を賑わわせた港湾労働者や綿花畑に働く季節労働者ら下層民のエネルギーを存分に嗅ぎ取り、このアルバムで表現しようとしているかのようだ。
たとえばメンフィス系ヘビー・ブルースの典型「ロンサム・ブルース」。ガラガラなディランの声は、まさに「ミシシッピ-メンフィス-シカゴ」と北上したブルース・ボーカルそのものである。主人公の不吉な因縁を振り払うようにうたうディランと、ボトム(下半身)で絡み合うバック・バンドが見事である。
戦前ブルースの大物中の大物、チャーリー・パットンのために書かれた「ハイ・ウォーター」も、凄い。パットンには、かつてのミシシッピ河の大氾濫をテーマとした「ハイ・ウォーター・エブリホエア」という代表曲があるのだが、これを下敷きに、21世紀にうたってみせるディランというのもルーツを忘れない「執念深い男」である。
もちろん、シェリル・クロウが取り上げて話題になった「ミシシッピ」も、今回のアルバムに(内容を書き換えて)収録されている。この歌もいい。
聞き込めば聞き込むほど、その歌声に隠れた「アメリカ」が浮き上がる『ラブ・アンド・セフト』である。
(おわり)