中川敬(Soul Flower Union)
■SFUの集大成のようなアルバム
 今やジャパニーズ・ロックの雄、とも言える大きな存在となったソウル・フラワー・ユニオン(SFU)。
 ハードな語り口、エネルギッシュなバンド・サウンドは、ロック・ファンだけではなく社会問題に関心のある人たちや、さまざまな運動家たちからも高い支持を得ている。
 2000年12月初頭、ソウル・フラワー・ユニオン中川敬(なかがわ・たかし)は沖縄にいた。沖縄伝統歌謡の最高峰、登川誠仁(のぼりかわ・せいじん)のニュー・アルバムをプロデュースするためである。
 この時、中川が持参していたのが、SFUの、まだバック・サウンドだけが完成したニュー・アルバムの音だった。
 彼のMDには、「殺人狂ルーレット」「サバイバーズ・バンケット」「Go−Goフーテンガール」「NOと言える男」「世紀のセレナーデ」などのタイトルが、11ほど記されいる。
 中川敬は、この新作のMDをスタジオで流しながら、「お囃子が入らないアルバムは久しぶりだ」と語りはじめた。
 中川の、その体からあふれるエネルギーは、変わらない。そして、きっぱりと、
「(今度のアルバムは)文句のない曲ばかり」だと。
 MDにあわせて、中川が歌い出す。今度の作品は特別だと言い切る自信が、その歌声から聞き取れた。                        
北谷・ajimaスタジオ(photo:Beats21)
 俺ら、89年からメジャーでやってきて、その前も自分たちで作品を作ってたから、曲が出来たらコンスタントにレコーディングをするのは当たり前やった。
 それがメジャーとの契約が切れて、ちょっとした時間ができたわけです。ちょうど同じ頃、奥野(真哉)も伊丹英子も自分のバンドをやってみたいと言い出した。それが今から2年ほど前あたりのことで、河村(博司)もふくめて、自分たちができること、やりたいことが、よりはっきりとした頃に前のレコード会社との関係が終わった。
 だから、この期間、俺の詞やらメロディやらが30を越えてしまって、今回はその中から厳選することができたということやね。これまでのアルバムが良くないということでは決してないんやけど、もっと歌を選ぶことに集中できた。中川個人にとっては、集大成とも言えるんじゃないかな。
 まだ、歌入れもしてないけど、これははっきりと言えるな。
■レイドバックできない俺
 たとえば、「Go−Goフーテンガール」という曲があんねんけど、明らかにかつてのイギリスのマージ・ビート、あるいは初期のスモール・フェイシズですよ。こんなタイプの曲をSFUが何で? ときっと思う人もいるはずやけど、アルバム全体としては無理がないのね。たぶん3年前の俺やったら、これは初期のニューエストの感じやし、ガキっぽいから止めたほうがいいんちゃうかなと思ったはずやねん、頭でっかちに。
 でも、それは違うだろう、ってこと。
 というのもね、最近思うことがあるんです。
 いろんな場所で、バンド・ブームの世代の、俺らと同じ頃に出てきたミュージシャンと話すことがあるんやけど、すごい違和感がある。俺は今、34なんやけど、だいたい30代半ばあたりのミュージシャンと、たとえば「どんと」の追悼コンサートで会ったりすると、レイドバックやらルーツやらがどうしたって話になるのね。
 彼らは、年を取れば、音楽が整理されて音の数も減って行くよね、なんて話をしてる。
 何でそんな詰まらん話、するんやろ。俺はまったくレイドバックやない。
 反対に、「くるり」とかサニーデイ・サービスとかと一緒になると、俺はこっちの方やなと思う。彼らはぜんぜんレイドバックなんかしてないし、俺も、ずっとラモーンズで生きたい。
伊丹英子と(photo:Beats21)
 だから、この2年ほど、自分のこの姿をそのまま出したらええやんって思うようになったし、今度のアルバムもそういう態度で作ってるわけ。
 結局、俺が惹かれるのは、(スタイルではない)パンクなりロックンロールなんやと、今、凄く感じるね。アイルランドや沖縄の音楽にも惹かれるのは、そういうことかも知れないと。
 もちろん、阪神淡路の震災をきっかけにして、俺らがモノノケ・サミット(Soul Flower Mononoke Summit)を作ったというのも大きい。
 ただ、このチンドンのバンドが神戸の長田なり色んな場所で公演したり、レパートリーが日本や韓国の民謡やったりするから、SFUも同じような「ワールド・ミュージック」のバンドやと勝手に思っている人がいる。
 まぁ、どう思われようとええねんけど。
登川誠仁と(photo:Beats21)
■アイルランド、沖縄、どんと
 今、ソウル・フラワーの新作と併行して、沖縄では登川誠仁のアルバムをプロデュースしているわけやけど、沖縄はアイルランドと似ているなと思う。
 俺らがアイルランドに惹かれるのは、音楽が素晴らしいことは当然として、やっぱり「人」なんやね。そういう意味ではアイルランドも沖縄も同じように感じる。
 人なつっこい。沈黙恐怖症やし。集まれば、アホな話ばっかりしてる。
 俺が出会ったアイルランドの人たちは、笑う時はとことん、怒る時ははっきりと怒る。そういう人たちがやってる音楽に俺は惹かれる。
 俺は世界を全部見て周ったわけやないけど、アイルランドや沖縄のような場所はいくらでもあるんやないかなと思うよ。だから、今のところ、俺にとってアイルランドと沖縄は大きい。
 でも、これを強調すると、世界の音楽を紹介してるようなバンドに思われるのね。考えれば誰でも分かるはずなんやけど、バンドやってるからといってアメリカ、イギリスだけに影響を受けてるわけやないやん。
「サバイバイーズ・バンケット」の詞を書く時、どんとのことが頭にあったことは確かやね。この曲、ストーンズ調のロック・ナンバーです。おれは「デッド・フラワーズ」(ローリング・ストーンズ『スティッキー・フィンガーズ』収録)みたいな曲を書きたかったわけ。
 どんとに限らず、俺のまわりで死んで行く人が目立つようになってきて。俺もそんな年になったのかな、とも思うけど、でもそこで湿っぽくしてるようじゃね。人が一人、死んだら「パーティのチャンス!」ぐらいには思いたい。
 これ、ニューオーリンズぽいやん、どんとが好きやった。
「サバイバイーズ・バンケット」は、みんなで騒げば、向こうへ行った人も喜ぶんちゃうか?という感じで作った曲です。
 このアルバムで、みんなに訴えたいことはある。
 以前からの俺らのメッセージと同じ流れやけど、みんなシンドそうに生きてるやろ。シンドいのに頑張らなあかんと思てる。それ、止めようや。
 シンドかったらボチボチやったら、ええんちゃうの? 走る必要もないし。歩けんのやったら、這って、ゆっくり来たらええやんか。これに気づいてほしい。
 新作には、そういう気持ちを込めてます。
(おわり)

( 2000/12/14 )

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