エクトル・リベーラは、ニューヨーク・ラテン(
サルサ)の中で、さほど注目されてこなかった人物である。力のあるバンド・マスターだが彼はフロントマンではなく、特に
サルサが燃え盛った1970年代には、ピアニスト、アレンジャーとしての活動の方が多かった。
今回、年月を経てソニー(エピック)から彼の若き日の2枚の秀作が出るのは、驚きと言っていいだろう。
リベーラは1933年、ニューヨークに生まれている。10代の終わりには地元のバンドに加わり、57年にはバンマスとして『Let's Cha Cha Cha』というデビュー・アルバムを作っているから、(歌手ならまだしも)かなり注目された若手だったと言えるだろう。
この『ビバ・リベラ!』は61年のアルバムで、
アフロ・キューバンがニューヨークで
サルサへと姿を変えようとするその時代の息吹を聞き取ることができる。すなわちフルオーケストらによるマンボでありチャチャチャでり、新しいリズムとしてキューバからやってきたパチャンガである。これに米ブラック・ミュージックのエッセンスを加えて、エクトル・リベーラはアルバム『At A Party』(66年)でブーガルーの人気者となる。
ラテンwithソウル、すなわちブーガルーは、安っぽい音作りのものも多かったが、エクトル・リベーラのそれは、キューバン・ベースの最高峰、カチャーオ・ロペスを加えるなど、土台のしっかりとしたサウンドで力量の差を見せた。
実力者としてのこの姿勢は、それに数年先立つ『ビバ・リベラ!』でも同じで、軽快に聞こえる「リンダ・ムラータ」にしても、裏で支えるどっしりとしたリズム・アンサンブルが迫力だ(コンガなどの打楽器の音量が、多少、入力過多のように聞こえるのも、この時代らしく実に雰囲気)。このほか「ジャ・セ・フォルモ」「パ・パ・チャ」など聞き物は多い。
今の日本の感覚からすれば、20代後半でこれほど落ち着いたオーケストラを指揮し、アレンジできるというのは、いくぶんびっくりかも知れない。この安定感により、彼は
サルサの中心人物の一人、
ファニア・レコードの代表、ジョニー・パチェーコのオーケストラのピアニストとしても、60年代半ばから活躍することになるのだった。
(藤田正)
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