題名のAcidってもちろん、60年代に広まったスラングでLSDのこと。ジャケットのデザインを見てもわかるように、アメリカの若いのがレロレロってしまう「魅惑のあの世」をイメージさせている。ロックにしてもソウルにしても、当時は同じ文化土壌を共有していたわけで、バレットの『アシッド』は、ニューヨーク・ラテン側からクスリっていいよねー、と誘っている代表的ヒット・アルバムなのだ。ふきんしん、はなはだshitってわけ。
『アシッド』は、ニューヨーク・ラテンがソウル&8ビートとの蜜月期の最終段階にあった時に出来た作品(68年)で、バレットも
サルサの大バンマスへと成長する直前だった。そう、30歳直前、みなぎる気力がアルバムの選曲、アレンジにもほどよく注入されて、ラテン×ソウルの曲と、次代(
サルサ)への訴求力のそのどちらも汗たっぷりに感じることのできるアルバムに仕上がっている。
クラブ系のdjにも極めて評価の高いタイトル曲にしても、ベイシック・リズムはオーソドックスなキューバのソン・モントゥーノだが、リズムのどこかセカセカし、エッジを効かせたそのアレンジは、「ニューヨーク-バレット-1960年代後半」という要素なくしてあり得なかった「雪降る街のトロピカル・リズム」の結晶と言えるだろう。
御大ボビー・ロドリゲスのベースが全体を引き締め、バレットのコンガの音が、ばっちりとデッカい。存在感あふれる、バレットの代表的1枚である。
(付記:どちからと言えば演奏に重きが置かれているので、その後に素晴らしい歌手へと成長するアダルベルト・サンティアーゴの存在感が希薄な作品でもあります)
(藤田正)
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『アシッド』