オーティス・レディングにもライブ録音はいくつかあって、ジミ・ヘドリクスとのカップリングとか、長く彼の最高の一枚といわれてきたパリでのライブとかあるんだけど、このライブも驚くべきクオリティですね。2010年の収穫の一つだろうし、なんでこんな音源がずっと倉庫の中で眠っていたのだろうと、やっぱりどうしても、聞きながら思う。
タジ・マハールがこの時、この場所にいたみたい。ライナーで彼は激しくその時の模様を語っている。それはそうでしょう、CDという音だけでこの迫力なんだから。忘れることなんてできやしない。で、大柄でがっしりとした体躯、でっかい声、抜群のリズム・センス…それがオーティスなんだけど、彼はこの時(1966年4月)たったの24歳だった。もう爆裂的にパーワーにあふれている。もちろん、さぁこれからトップをつかむぞ!の時期だったし、だからそんな意欲の塊のようだったシンガーが舞台を突き破らんばかりに足を踏み、四方へ汗を飛び散らかせて歌ってみせたら、もうたまらんよね。実はこのCDは、そんなオーティスのステージングがイメージできるくらいに「どきどきレコーディング」されているのだ。舞台そのものに肉薄したいいレコーディングなのだ。
彼のバックをつけているのはいわゆるロード・バンドで、かのブッカー・T&ザ・MGズやバーケイズじゃない。でも関係ないね。そっちはそっちでグレイトだけど「&ヒズ・オーケストラ」も抜群のリズムを弾き出している。トランペットが時々トチってるのも、完ぺき主義者にはイライラものだろうが、ぼくにはまったく大丈夫。全体を包む熱いエモーションが小さなミスを消してくれている。2枚組CDのラストで
ジェイムズ・ブラウンの「パパズ・ガット・ア・ブランド・ニュー・バッグ」をやるけど、これは何とやり直し。おそらく打ち合わせが足りなかったんだろう。でもここのオーティスの語りといい、やり直してからの大爆発ボーカルといい、言葉を失うほどに心がこもっている。「元気」とはこのことを言うんだね。「元気」を、オーティスから分けてもらおう!
*1966年4月9日、10日、ハリウッドの「ウィスキー・ア・ゴーゴー」でのライブを収録した2枚組。彼は翌年の12月10日に飛行機事故で亡くなる。
(文・藤田正)
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