恋は妄想だ、と思う楽しさ。心の内でウフと笑ったときに胸から染み出す苦味。サンボマスターは、このあたりの「若さ」を歌の中へ絞り出すことが、上手い。「若さ・イコール・十代」ではない。誰の心にもあるはずの、いや、持ち続けなくてはならない「若さ」のことだ。彼らは、われら妄想恋愛男子(女子)よ!、と絶叫するわけだけど、ただいま五六歳のぼくも思わず笑ってしまう。生きるためのツヤ、とでも言えばいいのか、それを四百メートル爆走気味に、全身汗ふきだし感覚で表現するのがサンボマスターという三人組である。
アイドル性とは無縁のロック・トリオ。メガネをかけて丸っこい山口隆が愛がどうしたやらキスしたいやらを熱唱する。現在のテレビ的視点からすれば、普段着でまるでオカシなバンドだが、考えればロックやフォークが世間の価値観を変えた一九七〇年代、ぼくらの「若さ」に応えてくれたのはそんな「彼ら」だった。サンボマスターの三人が、何物かにとり憑かれたようにロックであることにこだわるのは、きっと原点への愛があるからだ。I love youも、人の原点なんだよね。誰だって、そう叫んでいいんだ、ってこと。
『きみのためにつよくなりたい』は、彼らの五枚目となるアルバム。ちょうど結成十周年となる新作だが、日本のロック・バンドとして彼らはすでに大物の入り口に立っている。新作は、たとえ激しい曲調であっても、あるいはバラードであっても、代表的一曲「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」(〇五年、『僕と君の全てをロックンロールと呼べ』)を超えた重量感あるサウンドで迫る。「できっこないを やらなくちゃ」(先行シングル)にしても、チマタにあふれる「君よ頑張れ」がテーマだけど、山口隆のボーカルを筆頭とする途切れぬエネルギーの表出が、凡百の歌たちと一線を画する。
(文・藤田正)
*初出:週刊「金曜日」 2010年4月2日号
『きみのためにつよくなりたい』
『僕と君の全てをロックンロールと呼べ』
amazon-CD『きみのためにつよくなりたい / サンボマスター』(2010年4月21日発売)
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