池田卓の新作の題名は「ふうげつ はなひ とりようび」と読ませる。
沖縄の自然といっしょに生活している自覚があってこそのぼくの歌、ということなのだろう。といっても、いわゆる「自然回帰」「自然礼賛」という言葉でイメージされるアルバムではなく、これまでの池田路線の上にある都会の住人としての体験や視線から歌は作られている。都市(那覇あたりだろうか)にいるからこそ、自分がカントリー・ボーイであることをはっきりと知る。そこに故郷の「あの月」も「この花」も眼前に見ることができる。たとえば、
「サメに目をつけられたグルクンよ」(春の花にキスをしよう)
「モンパの陰に隠れた浜風」(いつものように)
「クイラ川を走るさざ波も、いつの日か」(
船浮のあの海で…)
穏やかなメロディの中からあらわれる、このような言葉が面白い。オキナワといっても彼のシマは西表島の、さらに西端の
船浮だ。那覇生まれの那覇育ちに、こんな歌(詞)は作れない。三線をまじえたアコースティック・サウンドとカントリー・ボーイとしての都市生活、それが
池田卓であり、本作はそれが際立つ作品であると言っていいだろう。
「しまそだち」「
船浮のあの海で…」ほか、この大不況の中、内地で必死に生きているウチナーンチュをテーマにしているとさえ言える切なさたっぷりの歌がいい。
「砂浜を這って行くウミガメよ、ガンバレ!」(春の花にキスをしよう)
(文・藤田正)