メレンゲとサミー・ソーサと悲劇の日本人移民の島、ドミニカ共和国から、フアン・ルイス・グエラの新作が届いた。
グエラは、バチャータというメランコリックなダンス歌謡で人気を得て、今や同島を代表する歌手となった人物だ。
レーベルを移籍しての久しぶりの新作は、ドミニカの、というよりもスパニッシュ・カリビアン全体を彼の手腕で優しく丸め包み込んだようなスウィートな内容となった。
1曲目「ぼくの心の治療薬 Medicine for My Soul」は、ラップを使ったイングリッシュ・サルサ&
メレンゲ(with スペイン語)で、なかなかにキャッチーなダンス・ナンバーだ。
おそらくEMI移籍をきっかけに、さらにジャンルを超えてヒットさせようという仲間達の企画なのだと思うが、こういった企画でよくみかける「この歌が、この人なの?!」というドル札ぷんぷんのアザトさがまるでなく、グエラはこういう歌も書けて歌えるんだという彼の柔軟性が強く印象として残るのだ(内容は、アメリカのド田舎、ルイジアナに住んでるオヤジがインターネットで知り合ったドミニカの美人にどっぷり惚れたんだけど、生活環境が違いすぎて=この描写が笑える=いったい私はどうしたらいいのでしょう? とカウンセラーに電話でたずねる、というコメディもの)。
そして2曲目「道のり Travesia」。典型的なアップ・テンポの
メレンゲだが、君のような人を探して世界を巡る……でも、君のような人はいない、というテーマとしては当たり前の歌だけど、このリズム・アレンジの洗練、メロディ&ボーカルの滑らかさを聞いていると、うっとりとしてくる。日本の新幹線に乗っても、中国にもシベリアに行っても(君のような人はいない)というジョークにしても、彼の穏やかなボーカルにぴったりと合って、フアン・ルイス・グエラってかっこいいなー、と思うアルバムなのだ。
サルサ、バチャータ、
メレンゲという曲のバランスと配置も良く、例えばトラック6、緩やかな
メレンゲの「君がぼくと踊らないならSi Tu No Baila Conmigo」の言葉の美しさ、リズム構成の「何気なさ」に触れるとき、あなたはJLG&440という素晴らしきプロ集団の術中にはまってしまっているのだ。
(文・藤田正)
Juan Luis Guerra 440(インタビュー画像、歌詞ほか)
Clip of "La Llave De Mi Corazon"
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『La Llave De Mi Corazon』