マンボラマTokyoの岡本郁生が、怒りのメッセージを送ってきた。
サルサの象徴とも言える大シンガー、故
エクトル・ラボーを、「ヘクター・ラヴォー」と平然と書いているライナーがある、ということなのだ。
アマチュアや新人の評論家じゃないよ。アメリカン・ポップを、ずいぶん書いている業界まっただなかの人だ。この人は立派なプロであるにもかかわらず、以前から、アメリカン・ポップの中においても大勢力であるラテン音楽に対して、ムチというか、そんなもん知らんよ〜の文章を書いた過去があった。岡本も私も、これについてはいささか疑問を抱いていたのだが、今回、ラボー追悼映画の、そのサントラCDの中に「ヘクター・ラヴォー」の日本語を見て、ちょっと、ひとこと言わせてもらう、となったのである。
たった一つの名前の読み方が違うってこと…そんなものどーだっていいじゃん、と思う方もいるかも知れない。けど、仮に安土桃山時代の原稿の中で、かの豊臣秀吉を「とよとみ・ひできち」と執筆者が書いたとしたら、あなたはどう思います? ずず〜っとゆずって、もしスペイン語の読み方に不安があるなら、このBeats21なり、日本語音楽サイトでもチェックすればすぐに了解できるはず、なのに、しないのはナゼ?
ヘクター・ラヴォーって誰のこと?
以下は、岡本郁生の批判文である。
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マーク・アンソニーと
ジェニファー・ロペス(J.LO)が主演した
エクトル・ラボーの伝記映画『
エル・カンタンテ』。
全米でこの8月に公開され、ラティーノを中心に大きな話題を巻き起こした作品だが、残念ながら、日本では劇場公開はされなかった。実は、「
マンボラマTokyo」で何社かの配給会社に話しを持ちかけてはみたのだが、とにかく興業権が高すぎてペイできないという返事。そんなこんなしているうちに、海外ではもうDVDがリリースされてしまった。ま、仕方がないですかね。とりあえず、サントラの日本盤も出たことだし。これはこれで…と思いながら、日本盤の解説を見て驚いた。村岡裕司という人が、なんと、「ヘクター・ラヴォー」と書いている。
Hector LaVoeですよ。
念のためにいっておくと、スペイン語では「h」の音は読まないので「エクトル」、「v」では下唇を噛まないので「ラボー」となるわけだ。
英語しか喋れない米国人の中に、
エクトル・ラボーのことを「ヘクター・ラヴォー」と呼んでしまう人々がたくさんいることは、もちろん俺も知っている。
しかし、ここは米国じゃないし、しかもこれ、『
エル・カンタンテ』のCD解説なのだ。わざわざ無知な米国人の真似をすることもないじゃないですか。
たかが名前というなかれ。名は体を表す。名前はその人の本質を表している。リチャード・スティーヴ・バレンスエラというメキシコ系の若者がリッチー・ヴァレンスと名前を変えなければデビューできなかったときから、グロリア・エステファン、ロス・ロボスが全米チャートを騒がすようになるまでに30年近くの年月がかかっている。その間には、ラティーノたちによるさまざまな努力が繰り返された。50年代まで米国社会の最底辺で生きざるをえなかった彼らは、60〜70年代にかけて、サルサを、ラテン・ロックを生きる糧にしながら、歯を食いしばって差別や偏見と戦い、徐々に社会的な地位を勝ち取ってきたのである。その結果が、グロリアやロス・ロボスの成功、ひいては、リッキー・マーティンの全米1位、そしてJ.LO人気へとつながっているわけなのだ。そんな彼らの闘争の原動力ともなったサルサという音楽の象徴的存在が
エクトル・ラボーなのである。
その人のことを「ヘクター・ラヴォー」だと? ラテン音楽をなめるのもいい加減にしてほしい。
しかし、問題(責任?)はむしろ、ソニー・ミュージックの方にある。なぜ、こういう人物に書かせるのか? 個人にはいろいろ趣味や好みがあるから、ラテン音楽に興味も関心もなくたって、それは一向にかまわない。しかし、そういう人がこの解説を書くべきではないんじゃないですかね。
そういえば、この秋にリリースされたJ.LOのアルバム『ブレイヴ』の宣伝資料には"2年半ぶりのアルバム!"と書いてあったっけ。今年(2007年)の春には素晴らしいスペイン語アルバム『ジェニファーの愛の11ヵ条〜コモ・アーマ・ウナ・ムヘール〜』を発表しているにもかかわらず、だ。自分のとこで出したアルバムを忘れてるんですか? あ〜あ、情けない。
そういえばついでにもうひとつ。最近日本盤もリリースされた『ヴェリー・ベスト・オブ・
サンタナ(原題:Ultimate Santana)』(こちらはBMGジャパンです)の解説では、大友博という人が
ティト・プエンテのことを「キューバ人音楽家」と書いていた。 はぁ…? いうまでもなく
ティト・プエンテはニューヨーク生まれのプエルトリカンであり"マンボの王様""リズムの王様"である。プエンテのことを何も知らない人が
サンタナの解説を書くというのも、どういうことなのだろう? そしてまた、それを訂正できないレコード会社の担当というのも、いったいどうなっているのだろうか?
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『エル・カンタンテ/マーク・アンソニー』
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『ブレイヴ/ジェニファー・ロペス』
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『ジェニファーの愛の11ヵ条〜コモ・アーマ・ウナ・ムヘール〜
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『ヴェリー・ベスト・オブ・サンタナ』