「私は、18才から22才ぐらいの若いシンガーがこういった曲を作り、立ち上がるのを待っていた。 本当に長いこと待っていた。しかしやがて、60年代に青春を過ごした世代が、まだまだこうしたことをやっていかねばならないのだと思い始めた。私たちはまだ現役なのだからね」
所属するワーナーのホームページに載った
ニール・ヤングの発言である。
ニール・ヤングといえばロック・ファンなら知らない人はいない。六〇年代から今まで第一線で活躍する大物である。日本にもたくさんのファンがいて、スタイルは違うがボブ・ディランと同じように孤高のスタイリストだ。
その彼が作った最新作『リヴィング・ウィズ・ウォー』が話題になっている。題名のとおり、戦時下にあるアメリカの「私」や「私たち」をテーマとした作品で、彼は制作を思い立ってから二週間で完成させたのだという。反戦、反ブッシュに貫かれた作品である。
冒頭の、若い連中の腰が重いなら、オレがやろうじゃないのという発言はこれを指していて、なるほど一曲目からめんめんと、ザラザラのエレキ・ギター・サウンドをバックに
ニール・ヤングは歌う。あの、鼻にかかったフニャッとしたボーカルで。
バックには百人編成のコーラス隊も加わっている。ときおり哀しげなトランペットのソロも入る。普通であれば、ヒズミをたっぷりと効かせたエレキの爆音に、こういったバックは組み合わせないものだけど、そこが
ニール・ヤングの面白いところで、平易につとめたメロディとリズムの相乗効果もあって、独自の音空間を作り上げてみせるのはさすがなのだ。
楽園たる地球が無くなったあとは…と歌う一曲の「アフター・ザ・ガーデン」。戦争と共に暮らす私、平和を願う私を歌う二曲目がタイトル・ソング。曲の間にはアメリカ国歌の抜粋が登場する。巨大消費社会と石油、ウソっぱちのプロパガンダ、戦争、飢餓社会…という地球規模の問題とそれらの関連性を的確にまとめた「ザ・レストレス・コンシューマー」は三曲目。四曲目の「ショック・アンド・オウ(奇襲攻撃)」では、いよいよブッシュ大統領が登場し、イラクへの空爆に対して「任務完了」と勝利宣言したあの航空母艦での演説をネタにする。そのデタラメな演説の陰でどれほどの人間が死んだのか? 激しいエイト・ビートに乗せて歌われるこの曲は、アルバムの中でも聞き物の一つだ。鎮魂のトランペットがいい味を出している。
アメリカでも特に話題になったのが七曲目の「レッツ・インピーチ・ザ・プレジデント(大統領を弾劾しよう)」である。いわく、大統領はウソつきだ、市民を戦争に狩り出し、おカネを使い果たし、法律を捻じ曲げ、盗聴をくり返し、テロのデマを流し、口を開けば矛盾だらけ…歌の中には大統領自身の声による有名な「迷言」がいくつもコピーされていて、ニールは徹底してブッシュを批判するのである。
支持率の落ち込むブッシュ政権に対する、現在のアメリカ人の怒り、ふんまんを、アルバムはよくとらえている。かつての名作「オハイオ」から、いくつも社会的な歌をうたってきた彼らしい作品だと言えるだろう。
ただ、一つ二つ気にかかるのは、八〇年代半ばの彼ってレーガン支持の時期があったはずだし、「9.11」の後では「悪魔を攻撃せねば」とうたい、仕返し戦争も当然とも受け取れるような歌を作ったこともあった…ということである。あんがい彼は、時の気運を読むことに機敏な人なのかも知れない。
そしてアルバム最後に登場するのが「9.11」で脚光を浴びた愛国歌「アメリカ・ザ・ビューティフル」だ。
結局はここに落ち着くのか…。おまけに、ニールがカナダ国民であることを考えると、我々の次期大統領はウンヌンとまで歌いこむアナタって誰? と言いたくなる。(音楽が面白いだけに)奇妙な後味が残る作品なのだった。
(藤田正、月刊『部落解放』2006年8月号)
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『リヴィング・ウィズ・ウォー/ニール ・ ヤング』