話題の映画『カンダハール』からアフガンの歌を「聞く」(2)---監督記者会見part1
Beats21
 アフガニスタンの現状を生々しく描いたことで、「米・同時多発テロ」以来、世界の注目が集まっているのが映画『カンダハール』である。
 準主役を演じた黒人男性が、殺人犯であるとアメリカの新聞で報じられるなど、なにかと話題が絶えない中、2002年1月11日、東京でイランからやってきたマフマルバフ監督の記者会見が開かれた。
 Beats21は、1時間以上に及んだ監督の発言のすべてを記載する。今回は、その part1。テロリズム、アフガン援助、メディアの責任、新作フィルムについてなど、ストレートな監督の見解が述べられる(通訳、山岸智子さん)。

 この『カンダハール』という映画は、約1年前に製作を終えました。
 『カンダハール』を作る前に、私は『サイクリスト』(1989年)というアフガニスタンを問題にしたフィルムを作りました。約2年前にもう一度、アフガニスタンに関する映画を作ろうと考え、調べ、旅もしました。約1年半前に、私は秘密裏にアフガニスタンに入りました。その時はタリバンが実質の支配をしていました。
 なによりも私がショックを受けたのは、野原でも…草は生えてませんが…、町の通りでも、人は死なんばかりに飢えていたということでした。
 アフガニスタンというのは基本的に、放牧、牧畜を重視している国なのですが、日照り、干ばつによって大変な被害を受けているのです。アフガニスタンというのは、自然が過酷で、干ばつという罰を与えられた社会だと思います。
 また政治によっても傷つけられました。過去の7年間、アフガニスタンは大変な苦しみを負ったわけですが、これに関しては様々なメディアから聞くことができます。
 私は映画を作ろうとしてアフガンに行きました。しかしその状況を見ているうちに、私がすべきことはもっとたくさんあることに気がつきました。
 過去20年の間に、250万の人がアフガンで亡くなっています。それを計算すれば、5分に1人、死んでいることになります。しかしこういうことに関して、メディアはずっと沈黙したままでした。
 そして過去20年の間に、700万人が国内外で難民状態になったわけです。つまり、毎分1人が難民になった計算になります。この難民に関してもメディアは何も言ってはくれませんでした。
 私はこの映画を作ることによって、世界が忘れてしまった社会の情報を与え、注目してもらいたいと思いました。そしてそれだけでも足りないと考え、本を書きました。それが、『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない、恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』(現代企画室)です。この記者会見の時間は限られていますので、より多くの情報が欲しい方は、どうぞこの本を読んでください。
関連サイト:
Makhmalbaf Film
 私はこの映画をカンヌ映画祭にかけた時に、ジャーナリストは、アフガンというような重要性のない国についてなぜ映画を作ったのだと聞きました。
 フランスのル・モンド紙が書いたのは、アフガニスタンのフィルムを観るよりもラブ・ストーリーのフィルムを観るほうが良いということでした。
 そのほかにも大勢の人が、なんでこんな重要性のないことを取り上げたのかと私に言いました。
 しかし「9・11」(米・同時多発テロ)がすべてを変えました。20年間、忘れられていたアフガニスタンという所が、メディアの第1の注目地になったわけです。
 しかしメディアが取り上げたのは、アフガンはテロリストの巣であるということばかりで、そこにある飢えについては語ってくれませんでした。
 そしてアフガニスタンの文化の難しさについても語ってくれませんでした。ヒゲを剃って、ネクタイをすれば、それで文化的な問題は解決だと考えていたようです。
 私は2週間前にアフガニスタンにいて、ブルカを被った女性たちともインタビューをしていました。(私が訪れた)ヘラートの98%がまだブルカを被っています。もうタリバンは去ってしまったのだから、なぜブルカを取らないのだと聞きますと、「私たちはこうしていたいのだ。これが私たちの風習なのだ」と言いました。「もしこれを取ってしまったら、神が私たちを地獄へ突き落とすだろう」と。
 写真は、映画『カンダハール』。
Makhmalbaf Film
 女性の意識を変えるためにすべきことは本を送ることであって、爆弾を落とすことではありません。
 私は『アフガンズ・アルファベット』(子どもの教育をテーマとしたドキュメント)という映画を作って、また別のポイントも示したいと思います。
 アフガン女性の95%は、タリバンが出てくる前も学校に行ったことはなかったのです。男性も80%はタリバン政権とは関係なく文盲だったのです。
 7年間のタリバン支配の時代には、誰も学校へは行けませんでした。
 300万人のアフガン人が、必ずしも合法的ではないかたちでイランへ難民としてやって来ました。
 どうぞ想像してみてください。過去7年間、もし日本人がまったく学校へ行かなかったら日本はどうなったであろうかと。その状態を変えるためには、爆弾を落とすことが良いことなのでしょうか。
 あともう一点、申し述べて、質疑応答に入りたいと思います。
 写真は、映画『アフガンズ・アルファベット』。
 ここ(記者会見会場)にいらっしゃる方は、みなさんジャーナリストだと思います。
 私には、メディアが発達すれば世界が小さくなるという説は間違いのように思えます。もしそれが本当ならば、過去25年間、なぜ誰もアフガニスタンについて書かなかったのでしょうか。
 (旧)ソ連で湖の水位が下がって、それによって大勢の人に大きな問題が起こった時にメディアはそれを取り上げましたけれど、アフガニスタンで人が次々に死んでいることは取り上げませんでした。                      
 メディアはお金持ちと、力を持っている人のためにあります。
 お金と権力を持っている人がメディアに、人々に何を知らせるべきかを指示しているのです。
 これは、世界の人々がブルカを被っているのと同じです。メディアというブルカの狭い穴の中から世界を見ることしかできないのです。どの国へ行っても、このことについてはメディアは「言うな」と言います。
 私たちはブルカを身につけて、世界は今どういう状態にあるのか、自分の目と自分の心を開いてみたいと思います。
 もしメディアが競合して「明日から、もうアフガンを取り上げないでおこう」と決めたら、誰もアフガニスタンについて語らないでしょう。
 
 それでみなさん、私がここで話していることの何%を書いてくれるのですか?
 ……私は検閲します、あなたは検閲します、彼は検閲します、だから私は検閲します、だからあなたは検閲します……これの繰り返しです。
Beats21
----(男性質問者)米軍がアフガニスタンに実際に爆弾を落としたが、これについての意見をうかがいたい。
 もちろん私は報復ということに反対です。私たちは現代に生きているのですから、別の方法があるはずです。
 たとえばアフガニスタンには1000万の地雷が敷設されています。この地雷は、アフガニスタン人同士の抗争でも敷設されましたし、先進諸国、強い国のためにも敷設されました。
 もし地雷の代わりに麦を埋めていたら、アフガニスタンの状況はまったく違っていたでしょう。もし爆弾の代わりに本を空から降らせていたら、状況は違っていたでしょう。
 タリバンは無知と貧困の責任を負っています。タリバンは政治的集団であっただけでなく、文化的な影響も大きく与えました。
 文化を変えるためには本を印刷しなくてはならないし、ビデオなども作らなくてはならない。けれどもアフガニスタンの大概の人は文盲なのです。
 アフガニスタンの平均的な死亡年齢は、38歳です。
 そしてその38年のうち、20年間、勉強というものをしていないのです。
(私の国である)イランには300万人のアフガン難民がいます。イラン政府は、残念なことに、難民の子どもたちに勉強させる機会をあまり与えてきませんでした。というのも、彼らは不法滞在としてイランにいるので学校へ行けなかったのです。     
 私は仲間と、「ACEM アフガン子ども教育運動」というNGOを作りました。
 3カ月にわたってイランの重要人物と話をして、やっとイランの法律を変えることができました。アフガンの子どもたちは今後、法的な地位に関わらず勉強ができることになりました。彼らが学べば、彼ら自身で彼らの国を再建できる道が拓けます。

----(女性質問者)監督は若い頃に、政治運動に参加していたということだが、今回のテロについて、どのように考えているか。テロをせざるを得ない理由、とは。
 イラン・イスラム革命が起きたのは、私が17歳になったあとでした。
 それ以前の国王体制の時は、表面は近代的だったのですが、農村部では大変に貧しかった。国の富はごく一部の人の所に集中していて、ほかの人はそれに手が付けられませんでした。私が住んでいた所は、もし病気になっても医者が来るのに1週間かかるという状態でした。言語統制も厳しく、政治について語るどんな人も監獄に入れられました。
 そして、あるグループが現れて、我々はこの国王体制を変えなくてはならない、闘争しなくてはならないと言いました。そしてこの体制を倒すには、武装闘争しかないと言いました。
 それは、(キューバの)バティスタ政権と闘ったチェ・ゲバラ、あるいはタリバンと闘ったマスード将軍のような人たちことを思い出してください。
 17歳の時、私はこの種の運動に加わって、捕らえられました。非常に重い刑だったのですが、まだ17歳だったので5年、入獄することになりました。その時、私は鉄砲で撃たれて14日間、病院にいました。そのあと私は拷問を受けて、そのために100日間、また病院にいなければならなかったのです。
 私の体に20センチ四方の拷問の傷跡が未だに残っています。  
 革命が起こって体制が変わりました。
 私を拷問を加えた人はアメリカへ逃げました。おそらく1万人を超える、当時の体制側、拷問を加える側の人が、欧米諸国へ逃げたわけです。笑ってしまうのですが、逃げた人が亡命先で民主主義のスローガンを叫んでいるのです。
(革命が起こった)といって、イランの中で状況が非常に変わったわけではありませんでした。
 私はまだ若かったのですが、変えるべきなのは文化であると考えました。人間の考え方を変えなくてはならないと思ったわけです。人の考え方が変わらない限り社会は変わらないと思い、政治活動をやめて映画作りに入りました。
 アフガニスタンについても同様だと思います。体制が変わったからといって、文化的に変わらなければ状況は変わらない。
 私が作った『サラーム・シネマ』(1995年)を観てください。机のこちら側にスマして座っている人が、いかにその他の人たちを抑圧するかを示しています。
 考え方が変わらない限り、人を取り替えたところで社会は変わらないのです。
 テロは反動である。それも、力を持つ者、あるいは貧しい者の富める者に対する反動であると考えています。
 テロは、拷問を受けた者が起こす反動です。
 もちろんこれは、ある種の病気であるとも言えます。拷問をするという体制も病んでいますし、言葉で話し合いで解決できない人も病んでいると思います。
 力のある人は、人々が道を拓くための手伝いをすべきです。私はアフガニスタンでお互いに殺し合いをしている若い人たちに言いました。「なぜ殺しあうのか」「なぜ許しあわないのか」と。
(彼らの応えは)「もし許してしまうと、私たちは忘れられてしまう。見てください、9月11日に大きなビルを二つ壊したことで、どんなに成果が上がったことか」
 私はこれは大変に危険だと思います。
 もしニューヨークの二つの大きな建物を崩すことで何かが守られるならば、今度は別の国が自分たちを守るために別のビルを二つ壊せば注目を浴びるということでしょうか。
 富裕な人たちは、貧しい人たちが反動を起こす前に、状況を変えることを考えなくてはなりません。

 *この記事は、「監督記者会見part2」に続きます。
 
関連サイト:
Makhmalbaf Film House http://www.makhmalbaf.com/

( 2002/01/14 )

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