特集 STOP THE WAR!・沖縄からの声(2)----平田大一(南島詩人)氏
ちらし「肝高の阿麻和利」
 平田大一氏は、NHK TV「ちゅらさん」で有名になった小浜島出身の舞台人である。
 別名「南島詩人」とも称し、現在31歳の彼は、沖縄出身の若手文化人の中で最も注目を集める一人である。現・勝連町きむたかホール館長。
 この10月(2001年)は、琉球古典「組踊」を現代に活かす舞台「肝高(きむたか)の阿麻和利(あまわり)」の演出家として、多忙な毎日を送った。
「肝高…」の公演場所となった勝連町(かつれんちょう)には、原潜ほか米軍軍用艦の主要寄港地「ホワイト・ビーチ」がある。
 平田さんは15世紀の勝連の英雄を、そして沖縄の「非戦」の教えを語ってくれた。
 インタビュワー:藤田正(Beats21)。
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阿麻和利をどうやって「殺す」か
----これまで琉球王朝に歯向かった逆賊だ何だと、さんざんに言われてきた阿麻和利だけど、この嶋津与志さんの脚本はまるで違う。阿麻和利はたとえ自分が殺されようとも、のちの世のために戦うべからずと主張している。これを阿麻和利の縁(ゆかり)の地である勝連の中高生たちが演じてみせる。
 そうですね。物語の最後で、主人公の阿麻和利が金丸(かなまる)の策略にかかって死ぬシーン。ぼくの好きなシーンなんですよ。
Beats21
----金丸とは、琉球の王「尚円(しょうえん)」のことですね。15世紀、第2尚氏王統における初代の王様だった人物。
「金丸のしわざだ」と、みんなが反撃に出ようとするところを、阿麻和利が「無駄に命を捨てる時世ではない」と言う。報復をするな、ということです。
 これは脚本を書かれた嶋先生の解釈なんですが、ぼくも好きなセリフなんですね。イタチごっこみたいな争いごとによって、力がより大きな力によって、再び抑え付けられるだけじゃないかと。その繰り返しなんだと。
 阿麻和利は自分1人の命で、その鎖が断ち切れるのであればと言う。私が鎖の最後となろうという阿麻和利の気持ちがね、好きです。実際、歴史的にも阿麻和利の死後、「三山統一(さんざんとういつ)」がなされた。
----本島における群雄割拠の時代が、一つ(中山)の権力へとまとめられる時代へと移る。
 だからぼくらは、阿麻和利をどう舞台で「殺す」かが最大のテーマだったんです。
 偶然にも米・同時多発テロが起こったわけだけど、ぼくとしては「肝高の阿麻和利」とダブりますね。違うのは、報復をしない、自らが争いをやめるということです。
勝連町きむたかホール
 確かに、阿麻和利に野望を持たせた方がいいんじゃないかという意見もあるんです。
「お国」のために、じゃないけど、憎き者に立ち向かわせるドラマでもいいんじゃないか、それこそ「肝高」(気高き心)の持ち主じゃないかと、抗議文みたいなものをもらったこともあります。
 その方の気持ちはぼくも分かるんです。
 だけども、それをやってしまうと……今の戦争が象徴的ですよね。
----戦乱の時代なのに、当然の反撃をしない。でも、この舞台の結末は大和(やまと)では、受けないだろうなー(笑い)。             
 そうですか!(笑い)
----あくまで一般論だけど、ヤマトでこの舞台をやると、やられたらやり返せといった感情が、もっと観客から沸いてくるんじゃないかな。伝統的に「武器を持たないクニ」という意識がみんなの気持ちの中にある沖縄と違って、反応はずいぶん違うと思う。
 (写真は「肝高の阿麻和利」の舞台)
■子どもたちの主体性に動かされる
「肝高の阿麻和利」のために集まってくれた子どもたちに、ぼくは「自分の足元、地域をもう一度見つめなおせ」と言うんです。地域に縁の偉人たちの生きざま、歴史を調べる。
 500年前と今と、何が違うのか。何も変わっていないじゃないか。かつての「肝高」という志高い生き方もね。
 阿麻和利のドラマを演じることが、自分を見つめ直す作業になっていく。
 ぼくらは舞台を作っているという意識はあまりないんです。台本をしっかり読んでもらって昔の人の生き方に学ぶ、触れてもらう、ということですね。
----ホール(勝連町きむたかホール)にリハーサルで集まっている子どもたちが、ちょっと驚くぐらいに、いい顔している。
(スタッフの中村良さん:)この勝連町は、きむたかホールが出来る前は、(舞台の主催である勝連の)教育委員会に子どもたちが集まっていたという珍しい所なんですよ。
----信じられない(笑い)。
(スタッフの松永太郎さん:)ホールが出来る前、放課後は教育委員会が子どもだらけになっていた。
----大人に呼びつけられたんじゃなくて。
 いや、面白い大人に会いにくる。そして、その大人たちも子どもたちの勢いに押されて変わっていった。舞台に出る人だけじゃなくて、パンフレットを作る、CDを作る、照明をやるとか、勝連に特徴的なのは裏方をやりたいという子どもたちが多いということです。
Beats21
 奇跡的な場ではあるんです。「肝高の阿麻和利」はこれで3回目になるんですが、一番驚いているのは、地元の大人たちなんですね。
 最初は「田舎の子どもだから」「おとなしいですよ」と親たちが言っていたんだけど、第1回目が終わった時点で、すべてが変わったね。
(中村:)平田さんが言ってたけど「子どもたちが変われば、地域が変わる」って。今の状況を見れば、本当にそうだと思う。阿麻和利が最後に言うセリフは、子どもたちから大人たちに向けた言葉であると。
----というと?
 子どもたちは立ち上がった。大人たちは、なぜまだ座っているんだということです。
 
■鬼束ちひろの「月光」に託して
(中村:)6月にぼくらは「平和の舞台」(沖縄戦「慰霊の日」にちなんだ与勝高校62人による反戦、平和の舞台)をやったんですが、そのあとにテロがあって、そうしたらちゃんとした反応が帰ってきた。「戦争が始まった、どうしよう」とか言ってね。
(松永:)アメリカの方向を向いて「平和の舞台」のテーマ・ソングを歌い出したり。
(中村:)「平和の舞台」をニューヨークでやろうとか。
----「平和の舞台」は2001年6月16日に「きむたかホール」で一般公開された。
 ある高校生の女の子に鬼束ちひろの「月光」を歌ってもらったんです。
 みんなは「平和の舞台」と何の関係があるの?と言っていたんだけど、本番ではその歌のバックで沖縄の地上戦の映像を流したんです。
(中村:)人が追い詰められてガケから飛び降りるという映像があって。
----ショッキングだね。
 RBC(琉球放送)が昔のフィルムを集めて編集した過去の実際の映像と、今、自分たちの周りにある歌を結び付ける。映像にはカメラに向かって笑いかけてる姿もあってね。
 ぼくからすると、50数年前の出来事は今にまで生きているんです。
 でも、ぼくらはどこかで何かを忘れてしまっているのではないか。
 戦争も、今、急に始まったんじゃなくて、用意周到に進められていたのではないか。
 だから、どんな状況になっても、一人ぼっちになっても「絶対、平和がいい」と言える人間になれるか、ということなんです。
 ぼくらは、過去の痛みを平和創造のエネルギーに代えるべきなんです。
Beats21
----ホワイト・ビーチ(米海軍の基地)がある勝連だからなおのこと。
 そうです。子どもたちの通学路もホワイト・ビーチと隣り合わせだから。
----きむたかホールは基地の関連助成金で建設したんだよね。
(中村:)「沖縄米軍基地所在市町村活性化特別事業」(98年に始まった1000億円プロジェクト)です。いわゆる「島懇事業」(島田晴雄慶應義塾大学教授が座長となった懇談会)。国がお金を上げるから、基地のある所は我慢しなさいということです。
----変わらない、これも沖縄のもう一つの姿。
(中村:)でも「平和の舞台」に「ぴとぅりぴき・むーるぴき」というテーマがあったから、子どもたちの中にも反戦に対する積極性が生まれたんだと思うよ。
----その言葉、分からない。
 八重山の言葉で「1人引き、諸引き」というんですよ。1人が立ちあがれば、みんなも立ちあがる。こんもりとした森も木1本から始まっている。平和のタネの1粒運動というのは、そういうことんなんだ。
 大勢で「セーノ!」じゃなくて、まず自分が平和の固まりになるしかない。
 そうやって1人1人がつながっていく。それが1番、強いと思う。
 ぼくらが勝連でやっているのは、そういうことですね。
(おわり)


「組踊 肝高の阿麻和利」読谷村公演
2001年11月18日(日)午後2時開演
会場:沖縄県読谷村文化センター(鳳ホール)tel(098)982-9292
入場無料

( 2001/10/30 )

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