<1999年5月>
ビースティ・ボーイズという三人組のグループがいる。バンド名は、ケダモノみたいな、悪たれなガキども、といったところである。
彼らは、一九八〇年代の半ば、黒人/ラテン系の若者たちが生み出した
ラップ・ミュージックが大流行となっていた時に、白人の
ラップとしては初めて爆発的なセールスを上げたグループだった。当時の彼らには『ライセンス・トゥ・イル』という有名なアルバムがあるけれども、これは「アホの免許証」といった意味で、「病気、不幸(ill)」を逆に用いて「とことん盛り上がっやるぜ(=それほどにアホ)」というニュアンスを込めている。
アメリカのバイオレンス・カルチャーの系譜と言えばいいのか、実際の彼らの行動も、好き放題、ワガママし放題のトラブル・メイカーとして話題になり、それがまたアルバムのセールスにもつながっていった。
その後の彼らは、大手レコード会社と契約問題でもめたりしたようだが、九十年代に入り、独自の会社を持ち、仲間たちのCDや雑誌を出すなどの活動によってアメリカ若者文化の発信者の一団としても一目置かれるようになっていった。
ビースティ、必ずしも「やんちゃ坊主」にあらずと世間に示したのは、リーダーであるアダム・ヤウクが呼びかけたチベット解放運動であった。ヤウクは、九四年に非営利団体「ミラレパ基金」を設立、欧米の人気ロック・アーティストを始めとした芸能人に協力をうながした。日本になじみのある人物としては、
ヨーコ・オノ、その息子のショーン・レノン(ジョン・レノンの息子でもある)、俳優のリチャード・ギアなどなど、これまでに相当数の有名人がコンサートや街頭活動、募金活動のために名を連ねてきた。
「ミラレパ基金」を中心とする彼らの主張は、非暴力の立場を貫きながら、チベットに対して圧政を続ける中国政府と、長い亡命生活を続けるダライ・ラマの両者を会談の席に付けるための努力を惜しまない、ということである。この中には、クリントン大統領(当時)にハッパをかけるといった政治的な行動もふくまれている。
同基金の主催による大イベントを収録したCD『チベタン・フリーダム・コンサート』(九六年と九七年のライブ)には、
U2、
フージーズほかの第一線のグループも登場する。
リーダーのアダム・ヤウクは、目的が果たされるまで行動を続けると公言しているが、はたして今年も大がかりなイベントが開かれることとなった。六月十三日、シカゴ、アムステルダム、シドニー、東京の四都市で同時に、二四時間ぶっ通しのコンサートを開くというものである。東京には忌野清志郎やスチャダラパーたちが出演する。
九七年には、ブラッド・ピット主演による映画『セブン・イヤーズ・イン・チベット』が製作され日本でも話題になった。今年の初夏には『クンドゥン』というダライ・ラマ十四世を描いた映画が公開される(マーティン・スコセッシ監督)。日本では
坂本龍一が、今秋に上演されるオペラ製作のために先日、ダライ・ラマと会見している。
チベット問題は文化の面でも、浮上する時期にきたのではないだろうか。
最後に、チベット憎たちによるCDを一枚だけ紹介しておこう。『チベット密教 聲明の驚愕』。深淵な「祈りの歌」である。
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『セックス・マシーンで踊りたかった 東京音楽通信1』藤田正著
Beats21推薦CD(1)『チベタン・フリーダム・コンサート』
Beats21推薦CD(2)『ビースティ・ボーイズ/ライセンス・トゥ・イル』
Beats21推薦CD(3)『チベット密教 聲明の驚愕』
Beats21推薦DVD(1)『セブン・イヤーズ・イン・チベット』
Beats21推薦DVD(2)『クンドゥン 』