ライブ・レポート さすが登川誠仁、沖縄音楽の最高峰
photo:Beats21
 2001年3月30日、沖縄市のアシビナー・ホールで「登川誠仁(のぼりかわ・せいじん)独演会」が開かれた。
 彼は映画『ナビィの恋』では高評を得て、本業の沖縄音楽では、ソウル・フラワー・ユニオンとの共演アルバム『Spiritual Unity』が5月発売にもかかわらず、すでにヒットの兆しを見せるなど、「琉球民謡協会名誉会長」の肩書を持つ人物とは思えないポップな活動を続ける。今回の独演会は、そんな人気に応えてのライブである。
 登川誠仁は、沖縄の中でも独演会というようなスタイルでなかなか公演を行なわない。これだけ有名な人物であるのに、彼の歌を一箇所でたっぷりと聴いたことのある人は沖縄でも珍しいはずである。
 それだからだろうか、ライブの場となった沖縄市の会場には、高齢の人たちに混じって、若い学生たちもたくさん詰めかけていた。もちろん満員。テレビ・カメラも、FM局のマイクも入った、開幕前から熱気に包まれるアシビナーだった。
photo:Beats21
 メンバーは、登川(六線、三線)ほか、金城みゆきらのコーラス、それにドラム&パーカッションである。前作『Howling Wolf』でも特徴的だった、打楽器と登川というセットが一部の大半で、彼を「民謡歌手」と思っていた人はずいぶん面食らったことだろう。
 1曲目は、すでに沖縄の各ラジオ局でヘビー・ローテーションとなっている「緑の沖縄」。2曲目が「歌の心」。続いて「豊節」。4曲目が「ゆしぐとぅぬ宝」。そして「新デンサー節」、「油断しるな」(するな、ではない)へ。これらは、5月9日に発売される『Spiritual Unity』のためにレコーディングされた曲目である(「豊節」は、沖縄限定シングルにだけ収録)。
 登川誠仁は、こういった曲目の合間あいまに、ちょっとしたトークを加えて舞台を進めていった。このトークが、面白い。迫力のある男性的な声で、しかも正装の彼だから、こんな人物が冗談を言うとはとても思えない。だが、マジメに歌の解説をしていると思わせておいて、ウチナー口で「今日はトイレに行けないからパンパースをしてきました」「(私の傍に置いてある飲み物は)アルコールではありません、燃料と言うのね」などと笑わせるのだった。
 ライブのサブ・タイトルに「セー小のトークと歌」とあるのは、こういう理由である。

 <注>「セー小」=誠小は、「セイグヮー」と読む。彼のニックネイム。
 「燃料」に火がつき始めたのは、7曲目の「孝行口説(こうこうくどぅち)」からだった。「くどぅち」は「くるち」とも発音するが、大和(やまと)からずっと昔に移入してきたこの歌のスタイルを説明しながら、彼は「いろんな口説があります。変わったものでは、車に轢きくるち(殺される)」。
 誠小、いよいよ乗ってきた。
 この「孝行口説」は、絶妙にリズムをキープする三線と彼のバリトンとが絡みつき、歌に独特の粘り腰を与えていた。さすがのビート感である。
 八重山の名曲「デンサー節」、同じく「鳩間節」と、彼のレパートリーは続く。
 「センスルー節」では、本部(もとぶ)、名護、宜野座(ぎのざ)という各地方の言葉の面白さを片っ端から歌いこみ、最後には「(占領時代)嘉手納の軍作業で聞こえてきたフィリピンの言葉」もやってしまう。もちろん大爆笑である。
 そして2部へ。2部では、「くんじゃんジントーヨー」という彼の代表曲に始まり、これも彼が「沖縄の歌」にさせた「ヒヤミカチ節」と、有名曲が目白押しという状態となる。「遊(あし)びションカネー」では三線の曲弾き、舞踊曲で知らぬ人のいない「加那ヨー」では、歌詞をまったく逆にしてうたってしまう。「民謡節渡り(ふしわたり)」は、沖縄の有名曲が数十曲、アタマだけメドレーで登場するという離れ業である。
 このような愉快なパフォーマンスの間に、「ナークニー」などの、名人級しかうたえない歌が登場するのである。
photo:Beats21
 約3時間、登川誠仁という芸達者の技を存分に見せてもらったライブだった。
 しかし、コンサートはこれで終わったわけではなかった。
 登川流の最高幹部である照屋正雄が、場つなぎをしたあとの第3部では、知る人ぞ知る誠小の舞踊「浜千鳥(ちじゅやー)」が登場した(写真)。
 どよめく会場もなんのその、登川誠仁という女形(おんながた)は、堂々と千鳥鳴く浜辺の淋しさを踊り切ったのである。
 
 コンサートのあと彼に話を聞けば、こういうような一人だけの舞台は彼にとって極めて珍しく、どのようにお客さんへ芸を届ければいいのか、ずっと悩んでいたのだそうだ。
 できれば、この5倍ほどの時間をもらって自分のレパートリーを思い切り披露したかったほどだとも。
 「でも、お客さんがぶっ倒れても困るからね」
 そう笑った登川誠仁の顔には、長時間の疲れなどまったくないように見えた。
(文・藤田正)

( 2001/04/03 )

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