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2008年11月11日、東京ウィメンズプラザで(Beats21) |
11月11日、シャクティ・ダンサーズのライブを観た。
…といっても、わかる人はまずいないだろう。彼女らはインドの最下層に生きる女性たちだ。「シャクティ」とは、インドにおいて、ダリット(いわゆる不可触民)として生きる女性の解放を訴えるキリスト教の団体のこと。そのシャクティの創設者であるシスター・チャンドラと共に、今回初めて来日したのである。
会場ではシャクティ・ダンサーズを紹介するDVDも1500円という安さで売られていたが、この内容も、ライブと同じように興味深いものだった。
カースト制の「外」におしやられているダリット。彼らに対する徹底した差別は、さまざまな文献で知ることができるが、このDVDも彼らへのすさまじい抑圧がベースとなっていることは言うまでもない。
インドの全人口の20%がダリットだそうである。30人に一人の割合。DVDのテロップに流れるこの数字が示すように、彼ら「人間とはみなされない人間たち」とは、長いインドの歴史において、単に「嫌われ者」「敗者」ということではなく、主流社会の繁栄は彼らダリットなくしてあり得なかったことを如実に物語っているのである。そういう存在を必要とし、彼らをその位置に留まらせるために宗教やら妄信やら様々な社会要素が動員され、これが社会常識となった。日本の
被差別部落のルーツときっと同じなんだろうとぼくは思う。
DVDでよくわかったのは、彼らダリットの中でも、特に女性はさらに差別を受けており、この21世紀のご時世ですら、女の子が生まれると殺されることが(シャクティの拠点である南インドなどでは)現実にあるのだそうだ。女性は結婚し子どもを生み家庭を守ることが何よりも幸せなことである…という、ダリットの人々自身も信じきっている常識は、実は経済的な意味においても女の子を持つダリットの家には大変な苦痛を強いている。なぜなら、女の子を嫁に出すにはダウリ(持参金)が必要であり、その金額たるやオヤジさんが一生かかっても払い切れないほどの大金だという。つまり嫁に出すたびに大借金を抱え、この家系は末代まで借り主に頭があがらない…だが、「結婚は幸せなこと」という常識だけはガンコに行き続けている。
その矛盾を矛盾と感じさせない一つの要因が教育の欠如である。とある踊り子の父親は、ジャパンもアメリカの存在も知らず、自国インドの首相は「インディラ・ガンジー?」と頼りなげに質問者に向かって答えるのである(ガンジーは1991年に暗殺。このDVDドキュメントは、ことし2008年の作品です)。ぼくはこのお父さんをバカにしているのではない、ヒンズー教をベースとする差別、人間支配の恐ろしさに鳥肌が立つ思いがしたのだ。
「シャクティ」を立ち上げたシスター・チャンドラは、しかし、そういう最下層の人たちにこそ、「生きたキリストを見る」と断言する。その温かさ。キリスト教の根本要素の一つである、シェアリング…分け与えることの歓び…それを実践しているのがダリットなのだと。
ゆえにシスター・チャンドラは、ダリットの、特に若い女性たちのための教育プログラムをスタートさせた。DVDは、その様子もこまめに追いかけてみせる。
そして何より、目を見張るのがダンスと音楽であった。
すたれゆく地域の伝統芸能(踊り)を、この女性たちによってさらに新しいものへと作り替える…しかし、そこには複雑かつ厳然たる職業差別がある。なんとシャクティ・ダンサーズが手にしたタップーという片面太鼓は、本来は、ダリットの、特別な職種の男たちだけに使うことが許され、その場とは上位
カーストの葬儀であり、タップーは同じダリットの葬儀では使うことができない…という、強烈なシバリのあるものなのだ。
ダリットの女性が、女性ダリットの解放のために、この「葬式の太鼓」を持ち歌い踊る、なんてことは非常識中の非常識なのである。シャクティ・ダンサーズたちは、このインドの悪癖をやぶらんと、熱い情熱で踊ってみせる。それがとても感動的なのだ。
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DVD『シスター・チャンドラと シャクティの踊り手たち』 |
DVD『シスター・チャンドラとシャクティの踊り手たち』は、松居和が制作・総指揮を担当している。ごく少数のスタッフだけでデジカメを回した作品である。ただこの人は尺八奏者としてスピルバーグ監督とも仕事をしており、なおかつキーボードを担当しているのがジャズ・ピアニストの松居慶子(奥さん)。音楽が、一般的なインディーズものと違うな〜と思っていたら、やっぱりだった。映像編集、そしてツボを心得たインタビューも上手。本編108分で、値段が1500円というのは、松居氏および仲間たちの心意気と見た(収益はシスター・チャンドラの活動に寄付)。
*彼女たちのライブ・レポートは、月刊『部落解放』2009年1月号=08年12月中旬発売、に記載予定)
みんな可憐な少女ばかりでした。手にしているのがタップー太鼓(Beats21)
この大きな飾り壺を頭に載せて踊るのがカラガッタム(Beats21)
ウルミー・ドラム。片方の革に松脂(?)が塗ってあり、スティックでこするとブタのイナナキのような面白い音を立てる(Beats21)
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amazon-CD『MOYO〜ハート・アンド・ソウル/松居慶子』