ハイチのトップ・パーカッショニスト、アゾール
Beats21
 7月末から8月初旬にかけて、「ハイチ・ヴードゥ・ミュージックの神髄2001」というコンサートのために、現代ハイチ最高の打楽器奏者と言われる「アゾール」が来日した(2001年)。
 カリブ海の黒人独立国、ハイチは、日本ではあまり馴染み深くはないが、世界の黒人音楽を聞く時には避けては通れないリズムの「大国」である。Beats21は、アゾール一行の来日にあわせて単独インタビューを行なった。
 一行メンバーは、パーカッションと歌のアゾールのほかに、ベテラン・ギタリストであるブロー・バルクール、ブローの息子であるスティーブ・バルクール(ベース)、そして女性ダンサーという4人である。
 協力:在日ハイチ大使館。
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----アゾールさんの経歴を教えてください。
 アゾール「1965年6月19日、首都のポルト・オー・プリンスの生まれです。
 母も父も音楽家でした。8歳からプロとして活動を始めて、最初のバンドが、シューパルー・コンボというパーカッション・グループ。次がボーカルが入ったバンドで、アルチュール・ドリバルのティカオール。3番目のバンドがSS1。
 自分のバンドは15歳からです」
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----かなり若い頃からプロとしてやってきた。
 アゾール「その後、舞踏団に入ってイタリアやコロンビアなど、色んな所で演奏をしてきました」
----ブローさんは、カリビアン・セクステットでギタリスト、シンガーとしてやってこられた。
 ブロー「私はケイプ・ヘイシャンに、46年に生まれました。16歳から音楽を始めて、以来ずっとですね。最初はロックをやってましたが、そのあとラシーヌ(ルーツ・ミュージック)に代えて、世界中を周っています」
----アゾールさんがパーカッションを始めたのはいつですか。
 アゾール「生まれてすぐ、という感じかな…」
 ブロー「彼はブードゥの神殿で生を受けた人物なんですよ。そこはみんなが儀式を執り行う特別な場所です。両親や司祭らに交じって、小さい頃から机を叩いていたりしていた」
Beats21
----彼は特別な存在だと。
 スティーブ「もちろん私たちもハイチ人ですから、ブードゥが何か、リズムとは何かといっことは知っています。でもアゾールは、そういった我々の文化の中心で生まれ育った人ですからね。同じハイチ人といっても、違います」
----8月1日のコンサートを見ましたが、たった3人の演奏なのに、なかなか奥深いものが聞えてきました。その中心にアゾールさんがいた。
 ブロー「ハイチのミュージシャンの中で、彼ほど高位な演奏を出来る人はいません。ハイチ人であれば、誰でも彼が一番だってことは知ってますよ」
 スティーブ「言葉を交わすことなしに、我々ミュージシャンやダンサーと<会話>ができる。ここではこうして、あそこではああしてと、素晴らしい交流が出来る人です」
----「黒人の打楽器演奏」なんて言うと、力まかせで荒々しい、といったイメージを持つ人もいるんじゃないかと思うのですが、あなたたち、そしてハイチのポップ・ミュージックは、素晴らしく洗練されています。
 スティーブ「そうなんですよ!」
Beats21
 ブロー「ハイチ音楽はアフリカ音楽やヨーロッパ音楽、ラテン音楽など色々なミックスで成り立っています。何よりも強いビートが肝心です。
 かつてアフリカの各地域から連れて来られた奴隷が、ハイチ(エスパニョーラ島)という1箇所へ集められました。だから我々のリズムは多様性があり色合いが豊かなんです」
 スティーブ「これをもとに、ハイチへ働きにきた異国の人々の音楽文化を私たちが取り入れいったわけです。こうして出来あがったのが<ブードゥ・ミュージック>であり、我々のクレオールの言葉で言う<ラシーヌ>という音楽なのです」
 アゾール「我々の音楽には、サイン、シンボルとなるものが含まれています。我々にたくさんの力を与えてくれるものです。これは奴隷制の時代からめんめんと受け継がれてきています」
----コンサートのオープニングの歌もその一つでした。
 アゾール「<オリーシャ・レグバ>という歌ですね。レグバという精霊は、我々が神と交信する儀式の最初に招き入れるゲストなのです
 ブロー「アフリカでも同じですが、何かを行なうために最初のステップ。ドアを開けるわけです。私たちの音楽文化はアフリカと直結しているんですよ」
(写真は、左端がスティーブ、右端がブロー)
A.C.E.(ACEAZ001)
----あまり知られていませんが、アフリカ大陸からハイチへ、そしてアメリカ合衆国へ、という重要な音楽文化の流れがあります。
 ブロー「たとえばジャズにしても、基盤はハイチにあります。ハイチで黒人国家として初めての独立に向けた革命が起こった時、支配者だったフランス植民者の一部は黒人奴隷を伴ってニューオーリンズへ向かいました。だからニューオーリンズではフランス語系のクレオールを話すでしょ。ハイチの奴隷が、かの地へ到着した時にジャズの歴史は始まったのです」
----キューバ音楽もそうですよね。ハイチと深いつながりがあったキューバのオリエンテ(東)から現代キューバ音楽が出来あがっていった。
 ブロー「そうです。そしてキューバはその後、私たちのハイチに彼らの洗練されたサウンドを届けてくれたというわけです(両者がミックスして、ヘイシャン・ポップの土台が出来あがった、という意味)。ドミニカ共和国のメレンゲも、マルチニークやグラドループのズークにしても、ハイチなくしてあり得ない音楽ですから」   (おわり)
(写真はアゾールの最新アルバム)

( 2001/08/19 )

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