直感!で世界を撮ってます--板垣真理子(フォト・ジャーナリスト)
Omara Portuondo
キューバ音楽の大物、オマーラ・ポルトゥオンドを撮る。彼女のハバナの自宅で。板垣のために「El Gloria de la vida(人生の喜び)」を歌っているところ:写真=板垣真理子
 危険地帯だと周囲に止められようが「行こう!」と決めたら、カメラを担いで飛んで行ってしまうのが板垣真理子という人である。
 ナイジェリアのサニー・アデを追いかけて、突撃取材を敢行したのもこの人。キューバのブエナ・ビスタ・ブームで最も活躍したカメラマンも彼女だった。 
 その爆発的なエネルギーは、どこから生れるのだろうか。(取材:藤田正)

--ナイジェリアのジュジュ・ミュージックが日本で大きな話題になったことがありました。ボブ・マーリーが亡くなって、次はジュジュだ…という感じで。板垣さんは、この時、政治うんぬんは別にして一般的な情報がまるでなかったナイジェリアへ1人で行ってしまうんですよね。
「周囲のカメラの先輩や仲間たちは、もう大反対でした。危険だからやめなさい、女性だから何されるかもわからない、とか。たった1人、行けばいいじゃないですか、と言ったのが藤田さんだった。藤田さんが『ミュージック・マガジン』の編集部にいた頃ですよね」
--そうです。政情が不安定な国だし、なにしろジュジュって何だ?って時に、レゴス(首都)などの下町へ飛び込んで行っちゃった。ひ弱な音楽評論家はもちろんのこと、男のフォト・ジャーナリストもビビリまくりの時だったよね。でも、やる気充分だったから、こりゃ型どおりに止めても、しょうがないだろうなと(笑い)。
「おかげさまで、ほんとーに、ありがとうございました(笑い)」
--最初がジャズだったんですよね。
「でも、私は遅かったんですよ。ジャズは、ぎりぎり<間に合った>という感じです」
Beats21
「80年代の初め頃ですから、ジャズの歴史的な人たちはこの世にいないんですよ。その頃に撮れた大物は、マイルス・デイビスやパット・メセニー、キース・ジャレットとか。だからサニー・アデの音楽を知った時は、大きな転機だったんでしょうね。これだ!と思ったから。でも、ナイジェリアで、言葉では言い表せないくらいの体験をして、そこから恐いものがなくなったし、何かが見えたんだと思います。私、あまり言わないことですけど、ナイジェリアから帰ってきて<逆カルチャー・ショック>っていうのかな、日本の生活の中で記憶喪失になったこともあったんですよ」
--それからは、広い意味での黒人音楽を中心にして、アフリカの奥地探訪とか、いろんな仕事をこなすようになった。
「もう20年経つんですよ、早いですね。私は、時代とリンクしないタイプです。ブラジルのバイーアの黒人音楽にしても、キューバにしても、行きたい!と思うだけ。この人を撮りたい! ぜんぶ、直感です。行くと<そうなってしまう>。マラリアで死にかけたこともありますけどね。すべての体験は、人間にとって損にはならない。損になるのは、その人のとらえ方の問題なんです」
「私は今、何が流行っているか、常に追いかけているような人じゃないんです。ただ、自分の足で、世界の素晴らしい音楽や人と出会ってきたという積み重ねはあると思います。だから、これは本物かどうかということについては、すぐに体が反応しますね。
 私が嬉しいなと思うのは、そういった感覚がまったく衰えていないことです。これからも、ビビッときたものは、追いかけていきたいと思います。
 だって、そうじゃなくては生きてる意味がないでしょ」

板垣真理子さんのHP: http://fox.zero.ad.jp/afrimari/
<板垣真理子さんの著作から>
Amazon.co.jp−『キューバ、愛!―ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブと音楽揺籃の地への旅』(板垣真理子著)
Amazon.co.jp−『バイーア・ブラック―ブラジルの中のアフリカを探して』(板垣真理子著)
<キューバ音楽のDVD>
Amazon.co.jp−DVD『ブエナ☆ビスタ☆ソシアル☆クラブ』(監督ヴィム・ヴェンダース)
Amazon.co.jp−DVD『キューバ・フェリス』(監督カリム・ドリディ)
 

( 2003/10/03 )

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