前回紹介した『新しい世界のかたち』も分厚い本だったが、この『
ヒップホップ・ジェネレーション』は、さらにブあつーい! 750ページ以上もある。
読むの大変!…と思いきや、あんがいそうでもないのだ。
『
ヒップホップ・ジェネレーション』(ジェフ・チャン著、押野素子訳、リットーミュージック)は、
ヒップホップとは何かを徹底的に語り倒した本である。
たとえば、ラップ・カルチャーとカリブ海音楽(
レゲエや
サルサ)との密接な関係はもはや常識だが、ではいかに関連しているのかを、著者はジャマイカのスラム街から取材し始めるのである。ジャマイカのキングストン、
レゲエ、ラスタ、そしてそれらの文化を携えた移民たちが、サウス・
ブロンクスでどのように暮らすようになったか、ジェフ・チャンは事細かに記述してゆく。
70年代半ば、ぼくはこのラップ〜
ヒップホップの中心地にいたことがあったから、なつかしくもあり、また20世紀最後のポップ・ミュージックの大革命の現場というものが、いったいどのような有様であったのか、この本で初めて理解できたことが多々あった。
ラップや
レゲエなどにあまり詳しくない人には、このカタカナ文字は何? というところもあるとは思うが、それを差し引いても、ものすごく面白い。アンド・読みやすい。
扱う時間軸は1968年から2001年まで。ニューヨークのギャング団とのかかわり、西海岸ではどーだったのか、などなど…
ヒップホップをただの流行ととらえることなく、アメリカ社会の底辺に起こった社会変動として、人種問題、暴動、メディアなどと結びつけて説明してあり、おそらくこの本は、今後、ラップの基本書籍になると思う。
帯には「American Book Awardを受賞した全米ベストセラー」とあった。本体3200円。
もう1冊は、ブルース、R&Bなどの著作で知られるピーター・グラルニックによる
プレスリー本『エルヴィス伝』(三井徹訳、みすず書房)だ。
実は私、これは10ページほどしか読んでません。
でも、これはいいね、きっと。
グラルニックだし、訳も三井徹(私の大先輩です)だもの。先に出た『エルヴィス登場!!』が、ロックンロールの鬼神となった時代を描いたいわば第1部だとすれば、こちらは大スターとなったあと死を迎えるまでのもろもろを克明&詳細に取材した後半部(1958年〜1977年)。アメリカン・ポップの頂点に立つということが、どのような不幸を呼び込むのか、ぼくも時間をかけて読み込みたい。
ただ本体価格8000円という立派な金額の書籍だから、購入するには財布との相談が必要ではありますね。
(文・藤田正)
amazon-
『ヒップ ホップ・ジェネレーション』
amazon-
『エルヴィス伝 復活後の軌跡1958-1977』